2018/10/28

スポーツ動作を説明するということ

金曜夜、ウェルビーイング・ラボ夜会 「走ることについて考える夜 - 体重活用編」 を実施。最近Facebookやブログで書いてきた動作の共通要素について90分くらいライブ説明した。参加のみなさんに喜んでいただき、僕も発見が説明しながらの発見も多く、やってよかった。

同時に思ったのは、ふだん文字で書いてきたことも伝わっていないものだなあ、ということ。スイム動作については東京近辺の方には有料講習会で説明してきたので、その範囲内では誤解を解消できているつもりだけど、ラン・バイクについて時間をとって説明する場はこれまでなかったなあ。今後もやってみたい。(これ系のは Facebook で告知しています)

「or条件」である
スポーツ動作の説明は難しい。厳密にいえば不可能だ。そうわかっていても僕は説明するのが大好き。

よく起こる誤解は、たとえば「ABC」と3つの話をしたときに、
正解=A and B and C
と「全要素のand条件」で「正解を求める」方向で受け取られがちなこと。
この方法では、「一見キレイなフォームだけど速くない」、という状況に陥りやすい気がする。

絶対的な正解が存在するのは高校生まで、センター試験で終了してるはずの世界。18歳から先は思考法をアップデートすべきであって、スポーツもその1つだ。

正しくは、
ヒント=A or B or C
という「or条件」だし、そもそもが1つの「ヒント」に過ぎない。どれか1つがアタりなら十分だ。そして並列された3要素とは、Cが当たった時にABとも整合性を取れていればいい、というCheck項目の関係にある。

「程度の問題」である
その上で、耐久競技では「程度の問題」が加わる。たとえば、
「上方での強い腕振り」という技術の活用度を、1km走なら90%、10kmなら75%、42kmなら前半40%後半55%ラスト7kmで80%
と、レース距離(=正確には持続時間)に応じて、動作技術のボリュームを調整してゆく。

のだけれども、その前に、
「そんな動作では42kmも持ちませんよね?」
という疑問で、思考がストップしてしまったりする。

僕の考えでは、「長距離専門の動作、という正解」を求めてしまった時点で、すでに成長機会を逃している。


「実験で検証すべき」である
そこでオススメの方法は、最小単位で実験してみること。たとえば
毎朝10km走るかわりに、1km×5に分割する
という場合、走行距離は50%ダウン、実験回数は500%アップだ。

こんな実験の中から、自分にとっての「妥当解」を見出してゆく。
そして、その妥当な「度合い」を高めてゆく。

「質の高い練習」とは、そういうものだと僕は思う。

誤解

よくある誤解の1つに、練習の質=心拍数の高い、パワー値の高い練習、タイムの速い練習、というものがあるように思う。

なぜ誤解なのかというと、(昔から何度も繰り返して言っている話だけど一応繰り返すと)、こういった身体負荷の高さに頼った練習は、伸びしろが限られるから。動作技術の改善なら、それこそ大迫傑レベルでも伸びしろあるのは 最近Twitterで書いた 通りだ。

でも、最近ではトレーニング内容の数値化が進んでいて、一見、とてもわかりやすいので、意識がそこに向かいがちな風潮があるように思う。

すると例えば、「上下動の数値をより少なく走ろう」という意識も持ってしまいがちだ。でも多くの場合それは間違った努力。そうなってしまうのは、ランニング動作の仕組みへの理解がないまま、コンピュータを盲信する姿勢があるからではないだろうか。

ここは超大事なことなので繰り返しておこう。
「質の高い練習」とは、まずは「質の高い動作を導く練習」である。身体負荷の高い練習、を必ずしも意味するものではない。もちろんそれはそれで必要な練習ではあるけれど、「身体を超疲れさせたから質が高い!速くなるぞ!」というのは、必ずしも報われるものではない。

ウェルビーイング・ラボ by MAKES
今回の開催目的は、400年以上前に判明したニュートン力学の基本に立ち返って、ランニングの仕組みから理解すること。

ランニング指導書は多いけど、このレベルで説明しているものはあんまり見ない。去年でた翻訳書 『ランニング・サイエンス』 などには幾らか書いてあったかな。たぶんランナー出身者が多いコーチ達には優先度の低い話なんだろうけど、僕がふだんいろいろ考え書いて、またトライアスロンするうえで、ニュートン力学は超使える実用的知識の宝庫だ。これを応用するだけで、かなりの疑問に対して「妥当解」を思いつくことができる。

こんな核になる考え方があれば、いろいろ玉石混交な情報に惑わされず、使いこなすことができる。それに、同じ走るなら、仕組みから理解できていたほうが楽しいとも思うし。

そんな価値観を共有する人たちと、まず「考えることを楽しむ」という場をつくりたいなと。それがこの形で実現できたのは、市民スポーツ支援に熱心な主催社メイクスさんのおかげです。その企業理念を発信する場のディレクションを八田は担当させていただいていて、その一環として今回のもあります。

今後の同種の会に関心ある方、告知は当面、
ウェルビーイング・ラボFacebookページ:https://www.facebook.com/wellbeing.labo
を優先する予定です。フォローしてお待ちください。





2018/10/20

KONA2018web分析1 世界の強豪エイジ半端なし!

10月に入りトレーニングを始めた。4年前までの感覚を体はまあまあ記憶しているけど、実行はまた別の話。再現しようとはせず、今は今なりに気持ち良い動き、状態を追求する。

トレーニング効果とは環境適応反応、急に冷え始めた季節に適応するのと同じ仕組みだ。暑いの寒いのと騒がず少しづつ慣らせていけばいい。2週も続ければ新しい環境にいくらか慣れてくるものだ。10月14日=ハワイ13日とはちょうどそんな時期。未明からアイアンマン世界選手権KONAをバイク前半くらいまでネット観戦。今年も発見が多かった。Facebookにばらばら書いてきたことをまとめておこう。

85歳の身体パフォーマンス

まずはエイジグルーパー(=陸上水泳のマスターズ相当です)から。日本人的に最大のビッグニュースは🇯🇵稲田弘さんによる人類史上初の85歳のアイアンマン世界王者誕生! 記録16:53:49とは制限時間まで6分11秒、比率にして0.4%のギリギリセーフ。

2015年大会では、スタート時刻の変更に伴い制限時間が16時間50分に短縮されたおかげで、
16時間50分走った先の世界記録に「 あ と 5 秒 」届かなかった稲田弘さん(83)は、世界のアイアンマンの新たな伝説を作っていると思う (2015.10 by Hatta)
で書いたドラマが生まれてしまったのだけど、その年も今までどおり17時間なら問題なく世界王者になれてたわけだ。でもそんな「もしも」を、85歳の今の行動により、吹き飛ばしてみせた。
※この件は後日、オリジナルな詳しいお話を提供するべく企画中です。(お待ちください)
日本人では他に、75歳🇯🇵Nakata, Hiroshi さんが14:30で4位入賞。高齢カテゴリで(いまのところ)強い。強豪チームTRIONで6位+7位という健闘もあった。


(画像はFacebook公式ストリーミング:IRONMAN World Championship brought to you by Amazon - Age Group Race Coverage Part 2 より、残り30分35秒あたりから)

世界最速の「糖質コントロール」

今年は風が歴史的な弱さだそうで、バイクのタイムが大幅に伸び、総合タイムも軒並み上がった。エイジ部門では 8:24:36(swim54:47 bike4:32:55 run2:50:56) というすごいコースレコードも生まれた。プロ込みで総合22位、ランは6位。

そのエイジ記録更新者は、NZのオークランド工科大学 (Auckland University of Technology)教授の🇳🇿️ Daniel Plews博士35歳。少年時代はエリート部門での競技歴があり、スポーツ科学者としてNZのボートや自転車のナショナルチームも担当しつつ、オンラインコーチング会社の共同経営者でもある。自らの体で理論を実践してみせた。プレイヤー、コーチ、研究者はそれぞれの役割は違うけど、一人で全部やってみせるのはすごい。学者としての究極の姿。

彼の方法論はこれから調べていきたいけど、コーチング会社の紹介文にある
the area of performance and individual improvement ・・・I've realised that much of what we've been taught is false.  
we're now beginning to unlock the keys to performance, health and longevity
なんてあたり、興味深い。

具体的に、たとえば「トレーニングLow+レースHigh」の糖質コントロールもしている。レースでは毎時60g=吸収上限の糖質をとるが、日常的には抑えて脂質代謝を上げる方法論。これ、前に書いた
耐久アスリートの「糖質×脂質」食 (2018.09 by Hatta)
と共通し、その最新形といえるだろう。大量のエネルギー供給を実現するターボチャージャーな仕組みで、それを受け止め消費しきる大容量エンジンあっての話でもあり、そのエンジン側にも強みはあるわけだ。

・・・
ところでエイジ総合1位がプロの中に食い込んでくることは結構あり、僕の出た2013年では、🇿🇦️ Buckingham, Kyle(29)が8:37で16位。彼はその翌年にプロ転向したけど、この順位は上回れていないんじゃないかな? 今年は総合24位、女子のRyfに17秒差まで詰められている。時間、環境が全てではないということだ。Plewsはプロによる高速化に対応してみせたのが独自の達成だと思う。

「週8時間練習」の50歳の世界王者

もう一人すごい人を。🇸🇪 Carl Brümmer50歳、優勝タイム9:05:37 (swim56:06 bike4:42:02 run3:21:19) 

個人サイト、Mikael Erikssonによるインタビュー によれば、20歳頃はスウェーデン選手権6位までなった元エリート選手。後に仕事に専念し、営業畑で出世して、巨大製薬会社アストラゼネカの1000億円規模の事業部でMarketing & Sales Directorまで務め、今は独立して組織系コンサルタントをしてる。

40歳からトライアスロン再開し、年齢増加とともにレースタイムを短縮し続け、アイアンマンのベストタイムは8時間台。そのための練習量は週8〜12時間だと。

僕が一番興味あるのはこのあたり。稲翁いくらすごいといっても彼の年齢まで40年、21世紀も後半になてしまうし、Plewsの35歳に戻ることはできないし、笑

もっと知りたい方へ

なぜこんなことが可能なのか? 僕なりに幾つかの仮説はあり、最新情報も追っかけていきたい。関心ある(奇特な)方は引き続きこの奇特なブログ笑、フォローください。

さらに、もう少し強力な仕組みを追加します。私のディレクション担当で新たに立ち上げた企業オウンドメディアでも取り上げていけると思うので、
Facebookページ→ ウェルビーイング・ラボ
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"brought to you by AMAZON"

ちなみに今年の冠スポンサーはAmazon。主目的はスポーツ補給食のネット販売で、専用サイトも用意してる。アマゾンという会社が世界最強書店であったのは大昔のこと、今や「ロングテールの真逆」を行くベストセラー限定書店で家賃収入いれながら別の商売に熱心な会社→
  なので、僕の本はAmazonでは買わずに普通に書店で注文いただきたいのだけど、それはそうと、かれらがスポーツ食品販売に手を出してくるということは、この分野は儲かると判断してのことだろう。メーカーの利益率も高そうだし? するとWiggle,CRCなど自転車系ネットショップの補給食コーナーとも重なりもする。他の扱い品にも拡大してくるかもしれない?