2018/11/13

24時間闘う精神力とは「言語力」である ー 神宮24時間マラソン観戦記2

<24時間マラソンという競技>
それは、日本人選手が(まだ)世界トップレベルで戦える競技。

日本人は、長時間を耐える活動にはおおむね強く、マラソンも42kmが単なる長時間競技であった時代には強かったが、アフリカ系がスピードを持ち込むと(=より正確には、腱の反発力を持ち込むと?)通用しなくなった。
大迫傑選手などはすでにアメリカ拠点のグローバルエリート、日本人の枠を飛び越えているし。(1億円分の所得税納付先もアメリカだよね?)

そこで、より長いところに追いやられて活路を求めてゆく。オリンピック実質最長競技の50km競歩も強い。(※自転車ロードは時間は長いけど根本的にパワー&スピードの競技であって耐久度は低い)

人気競技になってケニア選手が参入すれば別かもだけど。ただ、腱の反発力を活かせないスピード域になると、日本人体形のメリットも出しやすいかもだ。いつかガチ対決を見てみたい。

<都心で世界トップレベル大会、て知ってました?>
マイナー競技なのは「神宮外苑24時間チャレンジ・ウルトラマラソン」という存在を、僕も去年くらいまで知らなかったくらいだ。13回続いているってことは2005年から? 神宮外苑という都心で、最近では何十人かの参加ランナーのうち10人前後くらいが世界上位で戦えている、という高密度な場であるのにもかかわらず。


<24時間たたかえますか>
この長時間を、どう戦い抜くのか? 
3位表彰台、小谷さん11/11のゴール7時間後のFacebook投稿https://www.facebook.com/shuhei.odani の一文を紹介しよう。
2回弱気になる時間帯がありましたが「次の90分でキロ6プラス10秒くらいのペースを維持しつつ、喉の渇き感を押さえて、エネルギー収支も回復させる」みたいに前向きな小さな目標を立てて自分をコントロールできました。
に、大きな手がかりがあると思う。

ここに含まれる要素とは
  • 時間: 次の90分、というブロック内での身体反応の予測
  • ペース: 1km6分(=24時間で240km、目標より遅い)のさらに10秒プラス、という、いわば損切り=損失確定の判断
  • 喉の渇き感とエネルギー収支: 動力源Input、パフォーマンスOutput、それぞれの感覚
といった各種視点での「仮説」だ。

これは24時間徹夜の真っ最中、午前3時とかのレース中だ。そんな状況できるのは、ふだんの練習の中からそうしているからだろう。

<言語化>
僕は、こんな「言語化能力」が、長距離レースに必要な「精神力」の正体であると思う。

「精神力」とは、小谷さんの別投稿での定義では「心のマネジメント」。心とは(概ね)脳であり、脳は(概ね)言語によりマネジメントされるから。

辛抱我慢の「ド根性」は、たしかに有効ば場面はあるけれど、それは映画「ワイルド・スピード」のゼロヨンレースで魔改造したブースタースイッチのようなもの。押したくなった時に押してしまったら負け。その前に、できることはいろいろある

旧ブログに書いた、
" 自分なりの高効率動作を、日常的に、言語表現しておく。そしてレース終盤のキツさの中で、「このように身体を動かし続ける」と言語化したことを、確信をもって、脳内リピートする。"
(「動作の言語化」が長距離レース終盤を救う 2018.8.25)
とも通じる話だ。 


2018/11/11

地味に熱い! 神宮外苑24時間チャレンジ2018観戦記

11/28セミナー「糖質制限×脂肪燃焼」で長距離レースを戦うということ→ https://peatix.com/event/526106/ の小谷修平講師を応援すべく、かつ彼のメッソドの成果を確かめるべく、「神宮外苑24時間チャレンジ・ウルトラマラソン」11月11日11時のゴールちょっと前を観戦。

10日11時にスタートし、絵画館を囲む1,325mの楕円的な周回路をぐるぐるぐるぐるグルコサミン。優勝者で200周以上。日の入り16:38、日の出6:12。前後30分くらいは日光もあるけど、12時間以上の夜を走り通す。夜が明けて5時間走り続けてゴールだ。

走破距離は、東京駅前から東名高速で愛知県境くらいいく。1日でね!

痛そう、苦しそうなランナーは例外で、基本みんな淡々と走っている。トータルタイムが速い人ほど、終了直前でもすごいペースアップをするわけでもなく、軽いジョグをしているようでもある。さすがに顔の疲労感やウェアに浮き出た汗の結晶は、軽くないけど。
(着いたの終了直前なので写真とる暇なし! 誰かの撮った こちら とかご覧ください)



運営がおもしろくて、選手のサポートは登録された「ハンドラー」1名のみ、交代不可。1週7分とかで周り続けるので、補給食用意したり、タイム確認したり、忙しい。エイドも24時間営業だ。

上の 公式マップ 7番の下あたりがこの大会専用の基地となり、エイドの公式テント、ハンドラーや応援の私設テントなどがこじんまりと固まる。
コース沿いのエイドでは、ハンドラーが選手に渡すためのコップが置いてある。ひと目でわかるように、みんな変なコップを選んでいて変だ笑。

11時になると笛?が鳴り、選手が一斉に立ち止まって計測開始。タイミング・チップで周回カウントまでは自動計測されていて、最後の1周だけ手計測だ。選手は自分の番号の札を置き、スタッフがチョークを引いて回る。あとで、そのチョーク位置の距離と札を記録する。動画とってみた↓
小谷講師はベスト記録(256.8km)に迫るセカンドベストの255kmと279m、大満足とのこと。レース中は毎時30gの糖質を液体だけでとり、おかげで胃腸系のトラブルも無縁だったと。

糖質制限はガチで、ゴール後くばられたカレー食べながら、「米なんてずいぶん食べてなかったなあ」と。即食べない生活に戻るそうです。


来年のアメリカの「6日間走」=1周333mの室内トラックを延々走り続ける=が大目標としてあり、良い途中経過ともなったようだ。

優勝の高橋伸幸さんは268km! 総合ポイントで決まる世界選手権派遣ほぼ決定だそう。


そして2位の井上真悟さん、、、はたまたま目を閉じてだけで生きてます。ゴール後は皆さん概ね元気で楽しそう。トライアスロンよりも人数が少ないし、全員友達て感じになるんだろう。


ハセツネや列島横断のように、夜通し走るレースはランニング系わりとある。こちらにはトレイル系のコースバリエーションが無いけど、単調な環境の中で、シンプルな動作を極める競技なんだろう。

今日は、トライアスロンは宮崎のエイジ日本選手権、自転車はツール・ド・おきなわ、と市民レーサーたちの日本一決定戦が重なる1日。こちらは近場で淡々小規模なんだけど、地味に熱い大会だった!


2018/11/04

大迫傑の腕振りの進化と、典型的日本ランナーとの差 - ランニング動作論3


重たいものが動いた時、そこには力が発生している。

「腕振り」についてあてはめると、腕だけではせいぜい3kg(62kgの私のTANITA計測)。しかし、腕により駆動される胸郭全体まで含めれば10kgとかになる。両側あわせた回転運動としてみれば20kgとかになるだろう。

つまり、腕振りで最も意識するべきは腕ではない。胸郭の横回転だ。
胸郭の動作により運動エネルギーが生まれる。そのコントロールのために腕を動かす。

これ、たしか僕のトライアスロン(とラン)1年目の2010年のレース終盤、脚が止まりそうになった時に降りてきた感覚がもとになっていると思う。おかげで、明らかに練習の蓄積のないランを武器にできたかな? まあその成績レベルでは、という程度だけど。またこの視点で、トライアスロンでラン世界トップレベルのジョーゲンセン選手や上田藍選手の動きも納得できた。

では、人類最速、陸上エリートランナーではどうか?
その好例な動画がTwitterで流れてきた。大迫傑選手の学生時代からの、腕振りの差だ。


上は今の走り。
アフリカ系ランナーみたいに走っている。

路面はクロスカントリーで、NIKEヴェイパーフライの反発力は削がれているだろう。(NIKE契約の世界のトップランナーはみな不整地で多くの練習をしている気がする)

学生時代


下は学生時代のトラック。
小指の後ろで着地するフォアフット走なのは,
当時から変わらない。






2018/11/03

重たいものが動いた時、そこに力が生まれている - ランニング動作論2

10/26夜, ウェルビーイング・ラボ by MAKES ランニング講座を開催。このプロジェクトは100年人生を幸せに生きるヒントを提供してゆくのだけど、1つの軸で、市民アスリートの支援もしていきたいなと企画してみた。

前回ブログ「スポーツ動作を説明するということ」では、
"「質の高い練習」とは、まずは「質の高い動作を導く練習」である "
とさらっと書いた。質問とかいただいていないから、みんなよくわかったのかな?
「じゃ、質の高い動作って何ですか?」
と僕が訊いたら、どう答えますか?

そんな会話をしてみたいな、と企画した講座。というか、ふだん書いてる話ってどれくらい伝わってるのかな? と確かめてみたい気持ちもあって。(実際伝わっていないこと多かった、、)
「なにそれ? そんな話今聞いた!」という方、まずはフェイスブック https://www.facebook.com/wellbeing.labo いいね!」かフォロー」ください。いいね!の方が強度が強く、更新情報が表示されやすいようです。(Facebookは書いても表示されない投稿が多いから)
質の高い動作、とは、まずは物理法則に沿っていること。

僕の考えでは、ニュートンの運動方程式、「質量×加速度=力」という仕組みに大きなヒントがある。理科のテストではこの式に数字を入れて計算したけど、アスリートに必要なのは「起きている事実」として理解すること。つまり、
重たいものが動いた時、そこには力が発生している。
重たいもの、とはランニングとバイクなら、まず思い浮かぶのは脚。タニタ体組成計によると体重62kgの僕は片脚11-12kgらしい。(どこで切断するんだ?)

ということは、ランニングなら、ヒザを前に振り出して、振り子のように重力に任せて接地すれば、脚だけで10kg米袋、もしくは、2Lペッドボトル6本入りの箱をヒザの高さからドスンと落としたときのパワーが発生しているわけだ。体重40kg台とかの軽量女性でも大差はなく、せいぜい1本2本のペッドボトルを抜いたくらいで、その重量感は変わらない。

バイクのペダリングとは、そのペットボトル入りダンボールを、時計11時あたりから前に投げ下ろすパワーだ。この重力感を無視した筋稼働は無理。

それ以上に重たいのは体幹。どこで切り取るかにもよるけど、骨盤まわりだけで15kgとか20kgとかになるのではないだろうか。実際には身体の各パーツは連動するから数字に意味はなくて、要するに、とても重たいのが体幹。スイムはこの使い方で大きな差が出る。

だから体幹から順に考える。
いいかえれば、重たいものから順に考える。

よくある誤解は逆だ。
手足の末端の動きをマネしてしまう。
いいかえれば、軽いものから順に考えてしまう。

それは無理だよね。よくある「フォアフット論争」の無意味さも結局はここに尽きる。もちろん、マラソン2時間6分の選手が5分、4分、と目指すならまた別の意味もあるけど、あなたはそうですか?

以前からブログで書いてきたランニング技術についてのいろいろな考えも、軸はこういうことだ。フェイスブックで紹介した猫の大ジャンプ動画も仕組みは同じ。これをランニングの腕振りに応用した話はいずれ書こう。
しつこく書いておくと、早くしっかり書いて欲しい方はフェイスブック https://www.facebook.com/wellbeing.labo 「いいね!」フォロー」を。たくさんあれば早くしっかり書いて、ライブもまたやります!
なお自然界の法則によれば、生き物は年をとる。先日ハロウィンで逆らって13年前に(ネット内で)戻ってみたのだけれど、結論として、生き物は年をとるということがよくわかった笑
だったら加齢した生き物なりにパフォーマンス出していこう、という話は、改めて。

2018/10/28

スポーツ動作を説明するということ

金曜夜、ウェルビーイング・ラボ夜会 「走ることについて考える夜 - 体重活用編」 を実施。最近Facebookやブログで書いてきた動作の共通要素について90分くらいライブ説明した。参加のみなさんに喜んでいただき、僕も発見が説明しながらの発見も多く、やってよかった。

同時に思ったのは、ふだん文字で書いてきたことも伝わっていないものだなあ、ということ。スイム動作については東京近辺の方には有料講習会で説明してきたので、その範囲内では誤解を解消できているつもりだけど、ラン・バイクについて時間をとって説明する場はこれまでなかったなあ。今後もやってみたい。(これ系のは Facebook で告知しています)

「or条件」である
スポーツ動作の説明は難しい。厳密にいえば不可能だ。そうわかっていても僕は説明するのが大好き。

よく起こる誤解は、たとえば「ABC」と3つの話をしたときに、
正解=A and B and C
と「全要素のand条件」で「正解を求める」方向で受け取られがちなこと。
この方法では、「一見キレイなフォームだけど速くない」、という状況に陥りやすい気がする。

絶対的な正解が存在するのは高校生まで、センター試験で終了してるはずの世界。18歳から先は思考法をアップデートすべきであって、スポーツもその1つだ。

正しくは、
ヒント=A or B or C
という「or条件」だし、そもそもが1つの「ヒント」に過ぎない。どれか1つがアタりなら十分だ。そして並列された3要素とは、Cが当たった時にABとも整合性を取れていればいい、というCheck項目の関係にある。

「程度の問題」である
その上で、耐久競技では「程度の問題」が加わる。たとえば、
「上方での強い腕振り」という技術の活用度を、1km走なら90%、10kmなら75%、42kmなら前半40%後半55%ラスト7kmで80%
と、レース距離(=正確には持続時間)に応じて、動作技術のボリュームを調整してゆく。

のだけれども、その前に、
「そんな動作では42kmも持ちませんよね?」
という疑問で、思考がストップしてしまったりする。

僕の考えでは、「長距離専門の動作、という正解」を求めてしまった時点で、すでに成長機会を逃している。


「実験で検証すべき」である
そこでオススメの方法は、最小単位で実験してみること。たとえば
毎朝10km走るかわりに、1km×5に分割する
という場合、走行距離は50%ダウン、実験回数は500%アップだ。

こんな実験の中から、自分にとっての「妥当解」を見出してゆく。
そして、その妥当な「度合い」を高めてゆく。

「質の高い練習」とは、そういうものだと僕は思う。

誤解

よくある誤解の1つに、練習の質=心拍数の高い、パワー値の高い練習、タイムの速い練習、というものがあるように思う。

なぜ誤解なのかというと、(昔から何度も繰り返して言っている話だけど一応繰り返すと)、こういった身体負荷の高さに頼った練習は、伸びしろが限られるから。動作技術の改善なら、それこそ大迫傑レベルでも伸びしろあるのは 最近Twitterで書いた 通りだ。

でも、最近ではトレーニング内容の数値化が進んでいて、一見、とてもわかりやすいので、意識がそこに向かいがちな風潮があるように思う。

すると例えば、「上下動の数値をより少なく走ろう」という意識も持ってしまいがちだ。でも多くの場合それは間違った努力。そうなってしまうのは、ランニング動作の仕組みへの理解がないまま、コンピュータを盲信する姿勢があるからではないだろうか。

ここは超大事なことなので繰り返しておこう。
「質の高い練習」とは、まずは「質の高い動作を導く練習」である。身体負荷の高い練習、を必ずしも意味するものではない。もちろんそれはそれで必要な練習ではあるけれど、「身体を超疲れさせたから質が高い!速くなるぞ!」というのは、必ずしも報われるものではない。

ウェルビーイング・ラボ by MAKES
今回の開催目的は、400年以上前に判明したニュートン力学の基本に立ち返って、ランニングの仕組みから理解すること。

ランニング指導書は多いけど、このレベルで説明しているものはあんまり見ない。去年でた翻訳書 『ランニング・サイエンス』 などには幾らか書いてあったかな。たぶんランナー出身者が多いコーチ達には優先度の低い話なんだろうけど、僕がふだんいろいろ考え書いて、またトライアスロンするうえで、ニュートン力学は超使える実用的知識の宝庫だ。これを応用するだけで、かなりの疑問に対して「妥当解」を思いつくことができる。

こんな核になる考え方があれば、いろいろ玉石混交な情報に惑わされず、使いこなすことができる。それに、同じ走るなら、仕組みから理解できていたほうが楽しいとも思うし。

そんな価値観を共有する人たちと、まず「考えることを楽しむ」という場をつくりたいなと。それがこの形で実現できたのは、市民スポーツ支援に熱心な主催社メイクスさんのおかげです。その企業理念を発信する場のディレクションを八田は担当させていただいていて、その一環として今回のもあります。

今後の同種の会に関心ある方、告知は当面、
ウェルビーイング・ラボFacebookページ:https://www.facebook.com/wellbeing.labo
を優先する予定です。フォローしてお待ちください。





2018/10/20

KONA2018web分析1 世界の強豪エイジ半端なし!

10月に入りトレーニングを始めた。4年前までの感覚を体はまあまあ記憶しているけど、実行はまた別の話。再現しようとはせず、今は今なりに気持ち良い動き、状態を追求する。

トレーニング効果とは環境適応反応、急に冷え始めた季節に適応するのと同じ仕組みだ。暑いの寒いのと騒がず少しづつ慣らせていけばいい。2週も続ければ新しい環境にいくらか慣れてくるものだ。10月14日=ハワイ13日とはちょうどそんな時期。未明からアイアンマン世界選手権KONAをバイク前半くらいまでネット観戦。今年も発見が多かった。Facebookにばらばら書いてきたことをまとめておこう。

85歳の身体パフォーマンス

まずはエイジグルーパー(=陸上水泳のマスターズ相当です)から。日本人的に最大のビッグニュースは🇯🇵稲田弘さんによる人類史上初の85歳のアイアンマン世界王者誕生! 記録16:53:49とは制限時間まで6分11秒、比率にして0.4%のギリギリセーフ。

2015年大会では、スタート時刻の変更に伴い制限時間が16時間50分に短縮されたおかげで、
16時間50分走った先の世界記録に「 あ と 5 秒 」届かなかった稲田弘さん(83)は、世界のアイアンマンの新たな伝説を作っていると思う (2015.10 by Hatta)
で書いたドラマが生まれてしまったのだけど、その年も今までどおり17時間なら問題なく世界王者になれてたわけだ。でもそんな「もしも」を、85歳の今の行動により、吹き飛ばしてみせた。
※この件は後日、オリジナルな詳しいお話を提供するべく企画中です。(お待ちください)
日本人では他に、75歳🇯🇵Nakata, Hiroshi さんが14:30で4位入賞。高齢カテゴリで(いまのところ)強い。強豪チームTRIONで6位+7位という健闘もあった。


(画像はFacebook公式ストリーミング:IRONMAN World Championship brought to you by Amazon - Age Group Race Coverage Part 2 より、残り30分35秒あたりから)

世界最速の「糖質コントロール」

今年は風が歴史的な弱さだそうで、バイクのタイムが大幅に伸び、総合タイムも軒並み上がった。エイジ部門では 8:24:36(swim54:47 bike4:32:55 run2:50:56) というすごいコースレコードも生まれた。プロ込みで総合22位、ランは6位。

そのエイジ記録更新者は、NZのオークランド工科大学 (Auckland University of Technology)教授の🇳🇿️ Daniel Plews博士35歳。少年時代はエリート部門での競技歴があり、スポーツ科学者としてNZのボートや自転車のナショナルチームも担当しつつ、オンラインコーチング会社の共同経営者でもある。自らの体で理論を実践してみせた。プレイヤー、コーチ、研究者はそれぞれの役割は違うけど、一人で全部やってみせるのはすごい。学者としての究極の姿。

彼の方法論はこれから調べていきたいけど、コーチング会社の紹介文にある
the area of performance and individual improvement ・・・I've realised that much of what we've been taught is false.  
we're now beginning to unlock the keys to performance, health and longevity
なんてあたり、興味深い。

具体的に、たとえば「トレーニングLow+レースHigh」の糖質コントロールもしている。レースでは毎時60g=吸収上限の糖質をとるが、日常的には抑えて脂質代謝を上げる方法論。これ、前に書いた
耐久アスリートの「糖質×脂質」食 (2018.09 by Hatta)
と共通し、その最新形といえるだろう。大量のエネルギー供給を実現するターボチャージャーな仕組みで、それを受け止め消費しきる大容量エンジンあっての話でもあり、そのエンジン側にも強みはあるわけだ。

・・・
ところでエイジ総合1位がプロの中に食い込んでくることは結構あり、僕の出た2013年では、🇿🇦️ Buckingham, Kyle(29)が8:37で16位。彼はその翌年にプロ転向したけど、この順位は上回れていないんじゃないかな? 今年は総合24位、女子のRyfに17秒差まで詰められている。時間、環境が全てではないということだ。Plewsはプロによる高速化に対応してみせたのが独自の達成だと思う。

「週8時間練習」の50歳の世界王者

もう一人すごい人を。🇸🇪 Carl Brümmer50歳、優勝タイム9:05:37 (swim56:06 bike4:42:02 run3:21:19) 

個人サイト、Mikael Erikssonによるインタビュー によれば、20歳頃はスウェーデン選手権6位までなった元エリート選手。後に仕事に専念し、営業畑で出世して、巨大製薬会社アストラゼネカの1000億円規模の事業部でMarketing & Sales Directorまで務め、今は独立して組織系コンサルタントをしてる。

40歳からトライアスロン再開し、年齢増加とともにレースタイムを短縮し続け、アイアンマンのベストタイムは8時間台。そのための練習量は週8〜12時間だと。

僕が一番興味あるのはこのあたり。稲翁いくらすごいといっても彼の年齢まで40年、21世紀も後半になてしまうし、Plewsの35歳に戻ることはできないし、笑

もっと知りたい方へ

なぜこんなことが可能なのか? 僕なりに幾つかの仮説はあり、最新情報も追っかけていきたい。関心ある(奇特な)方は引き続きこの奇特なブログ笑、フォローください。

さらに、もう少し強力な仕組みを追加します。私のディレクション担当で新たに立ち上げた企業オウンドメディアでも取り上げていけると思うので、
Facebookページ→ ウェルビーイング・ラボ
フォローください。brought to you by 株式会社メイクスです。

"brought to you by AMAZON"

ちなみに今年の冠スポンサーはAmazon。主目的はスポーツ補給食のネット販売で、専用サイトも用意してる。アマゾンという会社が世界最強書店であったのは大昔のこと、今や「ロングテールの真逆」を行くベストセラー限定書店で家賃収入いれながら別の商売に熱心な会社→
  なので、僕の本はAmazonでは買わずに普通に書店で注文いただきたいのだけど、それはそうと、かれらがスポーツ食品販売に手を出してくるということは、この分野は儲かると判断してのことだろう。メーカーの利益率も高そうだし? するとWiggle,CRCなど自転車系ネットショップの補給食コーナーとも重なりもする。他の扱い品にも拡大してくるかもしれない? 

2018/09/16

耐久アスリートの「糖質×脂質」食

先の「大坂なおみのダイエット」の真実 で、ベースとなる事実は断片的なもの。なにしろ10代の女の子向けのファッション媒体teen-VOGUEのインタビューだからね。でも、トライアスロンを中心とした耐久スポーツの栄養理論を踏まえて考えれば、きわめて合理的なストーリーとして理解できる。そんな仮説を書いた。

今回は、その理論的骨組み、耐久スポーツの栄養理論について僕の最新の考えを書こう。

<長距離アスリートの食事法>

その耐久スポーツの方法論:
  1. 日常食: 糖質を抑え脂質は十分に
  2. トレーニング: 前後で糖質を十分にとる
目的:
  1. 日常生活全体を脂質代謝トレーニング化する
  2. 練習の質を上げ、回復も早める
その理由:
  • 長時間練習をしなくとも、長距離レース向けの重要能力を高めることができ(時間制約の大きな市民アスリートには特に重要)
  • その場合に重要度が上がる「短時間高強度トレーニング」では、一定の糖質が必要
  • トレーニング後のリカバリーのために、糖質でインスリンを分泌し、各種栄養素を同化させる
というのが僕の理解です。

この考え方は、6月に来日したデイブ・スコットも説明していた。詳しくはココログで書いたのをご参照→ " 短時間高負荷 × 低糖質 "によるアイアンマン226km攻略法 by Dave Scott」 



<単純な低糖質食のリスク>


注意したいのは、これは単なる低糖質食ではない、ということ。
低糖質食療法の指導、その限界について詳しい鈴木功医師は、低糖質食を長距離スポーツで実行した場合について
  • ある程度は適応するが
  • 出力低下、回復の遅れ、といったデメリットが出てきて
  • 最終的に、成績低下&故障リスク増加するケースが多い
という見解を9/6のFacebook投稿 で示されている。

これらデメリットとは、私思うに、
  1. 糖質の強力パワー使えないから出力低下
  2. インシュリン不足によるり超回復しない
  3. 1+2のW作用により筋力が下がる
  4. 2+3のW作用により故障する
といった流れかなと思う。
前半に書いた方法なら、この問題を回避することができるだろう。

<目的と手法>

大事なことは、自分なりの目的に即して方法論を使い分けること。
いいかえれば、ある特定の手法に依存してはいけない。

手法とは、個々の目的のために、必要に応じて使い分けられるべきものだ。

僕自身はレース中の糖質吸収能力が高いようで、レース中でもトレーニング中でも胃腸トラブルは一度も起きたことがない。たとえば「高負荷練習で吐きそうになった」とかの状態を想像することができない。また目標レースも2時間で終わる51.5kmトライアスロンが多く、脂質代謝がそれほど重要なわけでもなかった。

なので、米とかはトータルでは割と食べていたし。実際、日常のすべてを変えなくとも、部分的に採用するだけでも効果は得られるとも思っている。そもそも僕の競技成績には、プロテニスのような何十億円ものおカネがかかっていないし。

大坂選手の場合、何時間も続く試合中の糖質消費をセーブしたい、試合中の補給による血糖値変動を抑えたい、といった事情もある気がする。これはメンタル的な集中にも影響するだろうし。
確実に言えるのは、体質的に合っていることをトレーニングで確かめているはずだということ。だから、僕の挙げた仮説すべてがあってなくとも、どれかハマるものがあったんだろう。

結論; 糖×脂質の最適配分を探ろう。


2018/09/15

「大坂なおみのダイエット」と糖質制限の真実

もしくは、世界最先端の食事マネジメント術について説明しよう。

大坂なおみ選手、テニス全米オープン2018優勝記念の来日記者会見が、この木曜朝にあった。僕はちょうどアポの時間調整で日本橋あたりのDocomoショップ店内のWifiを使っていて、ちょうど生中継を店内のテレビで見ることができた。

会見中、「ダイエット」という言葉がギャルの減量みたいに受け取られ、笑いが起きていた。しかしDiet=食事、アスリートが使う時は「目的を持った食事のマネジメント」を意味する。日本の大衆文化とグローバルな最先端スポーツとの温度差が、ナオミ選手の微妙な表情から伝わってくるかのようでもあるけど気のせいかも。

その食事の詳細が、"teenVOGUE" ウェブサイト9/11に掲載されている。
Naomi Osaka on Mental Health and Training to Face Her Idol at the U.S. Open
食事面のポイントを抜くと:
  1. オフシーズン: 茹でた鶏肉・野菜中心、糖質は単独では摂らない
  2. 大会前: 炭水化物を摂らない
  3. 大会2週間: 朝食は同じサーモンベーグル
  4. 試合中: 必要量の糖質を補給、バナナも食べる
八田の推測を交えて解説すると:
  1. オフシーズン=減量期: パフォーマンス不要の時期に余分な脂肪をカットしておく。筋トレも積んでゆくと思う。食事内容は、高タンパク×低糖質×低脂質。なおブロッコリーにもそれなりに糖質が含まれていて、完全カットしてるわけでもない
  2. トーナメント前=耐久性能向上期: 体脂肪活用能力を高めるための低糖質食であり、減量目的ではないはず。おそらく高脂肪食。筋トレはせいぜい維持程度かな。
  3. 食事での糖質を(ほどほどに)解禁し、即戦力エネルギーであるグリコーゲンを充填する。ただし20世紀型の「カーボローディング」はしない。また同じ朝食にするのは「ルーティン化」し集中する目的であるのは、食事以外も同様
  4. おそらく試合に限らず、多くのフェーズで、練習中も必要な糖質を控えめに補給しているとも思う(半分に薄めたポカリスエット的なのとか)
このメソッドは、世界の長距離スポーツ界で行われるものと共通するのは、僕がふだんFacebookとブログ(旧ココログ)で言ってきた通りだ。

いわばナオミオオサカはトライアスリートのようにフィジカルを作り上げてきたわけだ。一方でセリーナは筋肉量は十分だが脂肪も載ったシーズン前キャンプ入りした野球選手のような状態であったよう見える。試合開始時点でセリーナとのフィジカル面、すくなくとも耐久性能での勝負はついていた。
「セリーナ、おまえはすでに負けている」
の余裕がメンタル差をうんだ、ともとれるかな。

動画はこちら:

なおこの記事を最初に知った日本のネットメディアでは新女王の食生活は「炭水化物はとらない」なんて書かれている。そんなわけはない笑

すべては目的をもった脂質と糖質のマネジメント。ギャルじゃないんで笑

2018/09/14

サヨナラCocolog、オッケーGoogle

〜もしくは「おはよう、身体。- 八田益之のエスノグラフィー」新設のお知らせ

12年にわたり書いてきたココログ http://masujiro.cocolog-nifty.com/ を退役させた。

過程と効果

2006年ごろ「流行ってるブログというものをやってみよう」と始めたココログ。既に非表示にしたくだらない投稿も幾つか。

でも書き続けてよかったのは、2007夏に買ったクロスバイクからの自転車、2010春からのトライアスロン、と今に至る端緒を〜当時まったくそんな想像すらしていなかったできごとを、記録できたこと。

2年前くらいから本の原稿を書き始めた時、そんなくだらない文章たちに、ずいぶんと助けられた。あなたも本とブログとを突き合わせて読めばおわかりになるだろう。(そんなヒマ人いないとおもうけど笑笑)

震災のショックが落ち着き、2年目のトライアスロンで成績上がっていって、もっと書きたい気持ちが膨らんで、Facebookを友達限定でちょっと書き始めたのが2011夏から。ブログはその間の貴重な記録になっている。Facebookは公開設定に変えたのが2012夏から。読者を増やそうと目標付けをしたのが2013夏からだ。この事情は本で少し触れた通り。

Facebookは「実名の読み手さんの人となりが透けて見える」効果が大きかった。反応もすばやく鋭く返ってくる。これは文章表現や構成の良いトレーニングになり、書き続ける動機にもなった。たまにブログにまとめ、Facebookで紹介してブログを読んでもらい、その反応をFacebookで得て、とパターンができた。Facebookはフロー、ブログはストック、あわせての両輪だ。

2013秋からのKONAレポートでこれがハマって、読者さん急増期に入る。そんな読者さんのおかげで、2017.9.14に登場したあの本も増刷できたのだった。初版が返品されるとは市場価値のないものを作ってしまったということ、出版界における死を意味する。売れたことで僕も堂々と活動し続けることができている。読者さんには感謝感激であります。

サヨナラCocolog

ココログというサービスは、きめ細やかなアクセス管理画面とか、いろいろ好きだったのだけど、せっかくの高機能を収益化するビジネスモデルが不十分だった気もする。Nifty(=日商岩井×富士通)から離れ、今は家電販売店の一部。これ以上投資する気もないのだろうな。

直接のきっかけは、Google大魔神さまの新方針、SSL化(アドレスがhttp:からhttps:に変わる)への対応がいまだに示されていないこと。検索結果などで不利になっている気もしていた。ココログさん日本のインターネット文化を開拓してきたのだろうけど。これも12年という時間だな。

オッケーGoogle

Google-Blogger使うのは、もうこの会社に振り回されないための保険というか必要経費(というか必要悪というかミカジメryo…)であろうと。デザインとか操作性とか人間的感性に劣るかなという気もして、たとえば「Twitterにリンクしても画像が出てこない」という問題 があった(解決済)りだけど、全体では最先端技術の安定性はあって、書いてる途中でフリーズして消えちゃった(ココログでたまにあった)とか無さそうな気もする。




ココログは途中、役割が何度も変わってきたから、ブログ名も何度か変えてきた。ブログ主もハッタリ君てキャラからリアル人間に変わってた。

新タイトルは、「おはよう、身体。- 八田益之のエスノグラフィー」。
あの本の主著者にとって、これしかないでしょう?