2019/11/16

タンパク補給の新常識を知っているか? -『科学的に正しい筋トレ 最強の教科書』 (庵野拓将, 2019)書評

[庵野 拓将]の科学的に正しい筋トレ 最強の教科書筋トレが流行るのはいいことだ。

スリムでいたい女性はダイエットでなく、まず筋トレのような運動から始めたほうがいい。

長距離アスリートでも、たとえば大迫傑さんは上体の筋力を高めることで走りを変えている。筋量が低下してゆく40−50代以降なら全員が考えるべきだ。

そこで練習メニューやプロテイン補給など、いろんな情報が入り乱れているけど、古かったり、今のあなた向きではなかったり、振り回されがちだ。たとえば「トレーニング後30分以内のプロテイン!」とはもう古いのだ。

そんな時に必要なのは、基本的な教科書。
『科学的に正しい筋トレ 最強の教科書』 (庵野拓将, KADOKAWA 2019)
はよく整理された良書だと思った。このブログでは、
  1. この本の特徴、役割
  2. なかみ
  3. 実践的な活かし方
について、情報魔トライアスリートとしての視点からお伝えしよう。

1.本書の役割

科学的であるとは「再現性がある(可能性が高い)」ということ。
でも一般人にはややこしいもの。この本は、いろいろな研究成果を体系的にストーリー立てて整理してくれる。鮮度もあり、ほぼ全てが2010年代、特にこの数年間の最新情報が中心だ。10年前の常識からどれだけ変わっているのかもわかる。

筋力トレーニング教徒たちに向け書かれているのは、表紙デザインからも明確なのだが、僕のようなロングディスタンス教徒でも重要な情報が多い。特に40代からは放っておくと筋肉量が減っていき、パフォーマンスのリミッターorボトルネックになってしまうから。


2.なかみ - 栄養編

冒頭、「科学的に正しい」とはどういうことか説明されてるの良き。
順序として、単発の研究論文があり、それらまとめた研究横断型の「メタアナリシス」「システマティックレビュー」(レビュー論文)がある。本書は、レビュー論文をさらに整理しているので、重要度や関連性もわかる。

そして序章の「7つの新常識」で概要がわかる。

あとは、自分が知りたいところだけをツマミ食いすればよし。僕に一番役に立ちそうなのが3章、栄養の研究成果だ。このポイントを紹介しておこう。(残りは本でどうそ)

a) 筋トレ後補給タイミングの新常識

  • 昔: トレーニング後30分以内の「ゴールデンタイム」にタンパク質を摂れ
  • 最新: トレーニング後1〜3時間ほどが筋タンパク質の合成速度が最も高く、少なくとも24時間は有効 
まず基本は、トレーニング後にタンパク質を摂取すると、筋タンパクの合成量が顕著に増加する。

問題はタイミングで、昔は「30分間がゴールデンタイム」と言われていた。根拠は2000年の論文(テキサス大学ラスムッセン等)で、僕も最近まで信じ込んでいた。思うに、プロテインなど栄養補助食品会社にとってとても都合のよい結果なので(30分以内の補給には普通食品では難しい)、こういう情報は広告資金とともに拡散しやすい。

しかし2014年、「24時間以内であれば良い」というの研究が登場、以後それを支持する研究成果が続々。国際スポーツ栄養学会も2017年に公式見解として発表している。

逆に言えば、一日中、栄養に気をつける必要があるということだ。普通の食事から、きちんとタンパク質を含むバランスの取れたご飯を食べることが重要。

また、「ゴールデンタイム説」で併せて言われていた、「筋トレ後タンパク質と糖質を一緒に摂取してインスリンを分泌させる」という方法論も、現在は不要とされている。インスリン分泌の効果はあるけど、糖だけでなくタンパク質単体からでも起きることがわかったからだ。これは2016年のレビュー論文による。低糖質でのファットアダプテーションではこの方法が根拠となる。
あくまでも筋タンパクの話であり、筋グリコーゲンの回復はまた別の話だ。糖質、もしくは脂質からのケトン産出/タンパクからの糖新生により、補充することになる。


b) タンパク摂取量の新常識

  • ざっくり、体重あたり1g-2gを毎日摂ればいい
  • トレーニングの理想は1.6g
1例として、十分な筋力トレーニングをしている体重70kgの若者なら、一食あたり27 g×3食、 就寝前35g、計116gのタンパク質を摂るのは1つの理想。体重が8割の56kgなら0.8を掛けて計93g。

意外なのは年齢で、若者よりも高齢者の方がタンパク質を多く摂る必要がある。加齢によりタンパク質の合成能力(同化能力)が減っていくからだ。

ある研究では、最適なタンパク質の一食あたり最適値は、20代の若者は体重1kg当たり平均0.24g(0.18-0.30)、70代の高齢者では平均0.4g(0.21-0.59)。例えば体重65 kgで、若者は平均16g、 高齢者では26g。中間の40代ならその中間ぐらいで良いだろう。

※1つ目と数値が違うのは、研究の目的や条件が違うから。科学的エビデンスとはそういうもの。


c) タンパクの内訳

  • 昔: タンパク質の摂りすぎで腎臓病リスクが上がる
  • 最新: 赤身肉(牛豚系)を大量に摂った場合だけリスクある
赤身肉の大量摂取は、腎臓病の発症、末期腎臓病の悪化といったリスクを上げる。これは2017年に発表された、男女6万人、15年間という大規模な研究成果による。また1日1食分の赤身肉の摂取を白身肉や魚に代替するだけで腎臓病悪化リスクは最大6割以上減少。
他にも同様な研究があり、白身肉や乳製品のタンパク質は腎臓にダメージを与えないともされる。

結論として、1日あたり体重1.6gのタンパク質の摂取量は、過剰な赤身肉を控える限り、腎臓ダメージは少ないだろう、となった。

赤身肉の害とは、消化の過程で酸を生成し、腎臓に対して毒性を引き起こすから、と考えられている。

赤身肉とははっきりいえば、哺乳類だ。もっといえば同類食。僕は普通にいただくのだけど、貴重な生命をいただいているのであり、「いただきます」とは昔の刺客の「お命頂戴」と同義なのである。それも生命の因果なのだが、やりすぎると報いもあるのだろう、と宗教的なことを書いてみた。

植物由来のタンパクは最近人気。
実は、野菜のタンパク質は意外と量が多く、質もわりと高い。「アミノ酸スコア」=必須アミノ酸のバランスが足りないものは多いので、組み合わせが大事ではある。米は単体では60台/100なので、大豆製品と併せてきたわけだ。これら穀類や野菜類の計算もれで、思ったより多く摂っている、という人もいそうな気がする。


d) プロテインパウダーと食品の関係

これらトレーニングと筋トレとの関係は、プロテインパウダーで実験されることが多く、全て食品由来の場合にどうなのかは、あまり研究されていない。こういう全体図がきちんと示されるのも、本書のよいところだ。

僕思うに、実験の管理がものすごく面倒になるからだろう。正確なたんぱく質の量を全員分、把握すること自体が難しい。すると明確な成果を出すことができない。すると大学院のポスドクさんが就職できなくなってしまう。

ということは、たとえば「吸収量の限界」も、普通の生活と違うわけだ。空腹時にプロテイン粉末で実験すれば、吸収が速いから、限度量が少なめに出るだろう。普通の食事なら吸収は緩やかなはずで、より多くの量を摂っても吸収してくれるだろう。
この視点がないと、余計なタンパク量計算で疲弊しがちだ。

自然食品について(数少ない)わかっていることの1つに、牛乳の実力が高い。牛乳はインスリンの分泌を促進するので、筋肉の分解も抑制しながら、新たな筋合成を促進してくれる。そのためには無脂肪乳よりも乳脂肪入りの全乳の方が効果が高い。また全乳は筋肉痛の回復効果も高い。 
参考: 【牛乳ほぼ最強説】プロテイン製品の過剰評価、ホエイ/ガゼインの誤解について 2019/02ブログ
同様に、卵全体の効果もとても高い。映画ロッキーでは白身だけ何個も食べているシーンが出てくるけれども、本当は卵黄も一緒に摂ったほうが効果が高い。

なお昔の研究では、卵の黄身はコレステロールが心臓病の原因になると言われていたけれども、現在では黄身に多い善玉コレステロールは積極的に摂る必要があるとなっている。

一般に、食品まるごと取ったほうが効果高いはずだと僕も思う。牛乳と卵は、生命体まるごと、みたいなもんで、優秀はなずだ。
プロテインなどの栄養補助食品とは、意図的にある部分だけ取り出したものだから、効果としては劣ったものになることが多いとも思う。だから栄養「補助」食品と名付けれている。

(両親の宿泊先で朝ごはん合流@二子玉川)

3.実践的な活かし方

10年前の常識がこれだけ変わるのはなぜかというと、以前は限れた条件だけを粗い方法で実験しただけ、その抜け漏れ含めてしっかり実験したらこうなった、ということだろう。

あくまでも「現時点での最新」であり、アップデートは常時必要。本書では著者ツイッターで追える: https://twitter.com/takumasa39

ここまでの文章をひっくり返すようなことを書いておくと、僕はそもそも、科学的エビデンスと言われるものをあんまり信じてはいない。やたらエビデンスえびでんす言ってくるエビ教徒さんからも少し距離を置いている。
なぜなら、科学論文の多くは細かすぎたり、状況が特殊過ぎたりするから。また「その実験で分かったこと」しかわからず、わかってない範囲のほうが遥かに大きいから。つまり、全体状況を俯瞰することがとてもむずかしい。

知っていること、信じること、実行すること、はそれぞれ別だ。
僕のスタンスは、知っておくが、信じずに、雑に実行してみる。

たとえば薬剤師なら、決められたガイドラインに基づいて正確な量やタイミングで実行する必要がある。知って、信じて、実行する。
僕の考えでは、スポーツ選手は違う。
雑に理解し、テキトーに決めて、徹底的に練習しろ。

僕は一切計算せず、食欲に任せている。人体とはそういうふうに出来ていると思う。ただし睡眠を十分に取れている場合に限る。

食べるタイミングについては、実感として、とはいえ1時間以内には食べたい。実際このタイミングで食べるものは何でも美味い。牛乳や豆乳にココアパウダーとバナナで飲むだけで美味い。ホールフードは吸収時間かかるし、空腹時に糖新生(=筋肉の分解)が進むことまで考えてみても(気にしないけど)、1時間以内は1つの目安にしていいとは思う。

「わかっていること/まだわからないこと」が明確なら、「わかっていること」を出発点に、自分なりの試行錯誤を効率よく進めることができる。

 
(Kindle Unlimited対象、会員無料)

(ちなみにAmazon、トップレビューが否定的で、そこに最大の「役に立った」が入ってるの、Amazonあるあるだ。
自分で実証して、自分で実験して、それで間違えでもいいから意見を言ってほしい❞ というのも1つの価値観だから好きにすればいいけど、それは、本書でいえば「レビュー論文」を否定するようなもので、視野を狭めて情報入手に歪みを発生させてしまう。まあ、自分の好きなものを選んでいけばいいと思うけど。微笑) 

※お知らせ:最近は"note"に書いてます

https://note.mu/hatta_masu


今回は実験的にこちら復帰。でもNoteのUIに慣れるとブログは書きにくく感じる。「ブログ」とは15年くらい前のガラケー全盛期の化石的システム、noteは最新の技術とデザインが投入され続けてていて、文章がサクサク書けてデザインも良いので。

ただマニアックすぎる個人的な話は引き続きこの化石システムに書いていくかもです。間違ってたくさん読まれると迷惑なので笑

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それぞれ別の話を書いてるので、よろしければそれぞれフォローくださいな。


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