結論:”Polarizedトレーニング”の実践事例が聞けて良かった!
乳酸研究会は、乳酸が有酸素運動のエネルギー源であることを啓蒙する八田秀雄教授を中心とした研究発表会。参加者数が前回の倍という大盛況、学生さんぽいスタッフが何度もイスを搬入して立ち見を撲滅されてた。
リオ五輪2016、マラソン男子25kmからのペースアップ
1つめの発表は、乳酸を作る、使う能力をテーマに榎木泰介先生(大阪教育大)が。リオ・オリンピックの男子マラソンのペースが紹介された:- 25kmまで:ふつうのマラソンのペースで大集団
- 25kmから:キプチョゲが一気にペースアップ、35kmまでの10kmが29:30
- この変化に着いていけた選手がメダル獲得
- その一人、アメリカのゲーレン・ラップにとっては速すぎて、35kmでキプチョゲから離るが、自分の巡航ペースへの切り替えに成功し、銅メダル獲得
- キプチョゲはそのまま独走して金メダル
逆に、このギア上げ=「乳酸ゾーン突入能力」が不足する選手は、いくらLT=巡航ペースで追い上げたとしても、乳酸能力十分な選手が乳酸ロケットを使い果たしてもLTペースに戻されたら、追いつけない、とも考えられるだろう。
乳酸の仕組み
筋肉内で、グリコーゲンが、乳酸に変わり、ミトコンドリアで利用される。速筋は乳酸産出能力が高く、ミトコンドリアは遅筋に多い。
よって、乳酸は、速筋で作られやすく、遅筋で使われやすい。
”Polarizedトレーニング”
Polarized=ポラライズド・トレーニングとは、高強度と低強度とに二極分化させたトレーニング方法。Polar=極、対照的なもの。世界のトップレベルの長距離スポーツで主流になっていると言ってもいいだろう。伝統的な表現をすれば「量より質」、最近の一般的な流行りで言えばHIIT=高負荷インターバル・トレーニング、タバタ式とか、など呼ばれている方法論が、イメージとして近いだろう。
トレーニングの三分法
まず前提として、トレーニングの三分法という考え方がある。- 低強度(ゾーン1): 最大心拍80%以下
- 中強度(ゾーン2): 最大心拍80-88%、LT=閾値強度
- 高強度(ゾーン3): 最大心拍88%以上
詳しくは、竹井尚也さんの文章、「効果的・効率的に持久的運動能力を高める”Polarizedトレーニングモデル”とは!?」 (ZONE MAG 2019.01.24) をご参照。
※乳酸研究者である竹井さん的には血中乳酸濃度が基準、HRは代替物扱いで
従来型の長距離トレーニングでは、中強度=LT域を中心に量を積み、負荷は軽いリカバリー程度、高負荷もあんまりやらないという方法が主流。
- LT手前: 2 mmol/l以下
- 閾値=LT強度: 2-4 mmol/l
- 高強度=OBLA以降: 4 mmol/l以上
対してポラライズド法では、たとえば「低負荷75%、中負荷5-10%、高負荷15-20%」(※回数比、距離ではない点に注意!!)など極端に振り分ける。
こうすることで乳酸を産出し(速筋)、消費する(遅筋)能力を鍛えるようなイメージかな。(詳しい仕組み聞いていない)
東京大学陸上運動部
東大の陸上部では、練習時間が限られて、結果がほしければ「練習時間に対する競技パフォーマンス」を高める必要がある。この点で多くの市民アスリートと共通する。アメリカのNCAA所属の選手も確か週20時間以内に練習が限られているので(20時間も練習できれば十分だけど笑)、普遍的なテーマでもある。特に近藤秀一選手は理系だし。近藤選手の練習内容
近藤選手は大学2年時から八田研究室の研究対象となり、この3年間の月間走行距離は平均して500キロちょっと。東京マラソンを2時間14分で走った直前3ヶ月には700〜800kmを走っているが、それ以外は500台くらいが多い。トライアスロンで言えば、単純に3で割れば月間170〜180 km相当だ。それで5000 m14分、マラソン2時間14分。この1月の箱根駅伝では、彼の本来の能力なら先頭集団を争えていてもおかしくはなく、ぜひ今後の活躍を楽しみにしたいランナーだ。
そんな走力を月500 km でどのように実現するのか? と採用されているのが、このPolarな二極分化法。
実際の練習メニューとして紹介されていたのは、
❝ ポイント練習を1〜2日の休養日をはさんで行い、そこで1000m 5本、3000-2000-1000, 1万mを3:30/kmの低負荷(※10km35分で低負荷なのがトップランナー!)で走った後で全力1000m ❞など、それ自体は何の仕掛けもないどこにでもあるメニューだ。
違いがあるとしたら、それ以外に、中〜高負荷のメニューをやらないということ。5000mをターゲットに置いた練習だということはあるが。
近藤選手の実感
近藤選手自身も学部生スタッフとして運営お手伝いしながら、ライブでコメントされていた。実感として、- 長めの低負荷の後での高負荷トレーニングは、糖質が減ったきつい状態から負荷をかけるので、感覚として効く
- レースでは、高強度に慣れているので、余裕ができる
- タイムで成長を把握するのは、どうしてもレース展開に左右されるし、夏は暑さでタイムが出ないのに対して、乳酸測定でLT(中負荷への境界)やOBLA(高負荷への境界)の数値を向上させるのは、確実に取り組みの効果を実感できる
ちなみに近藤さんは紺のスーツ姿で、細すぎるということはなく、引き締まった筋肉もほどよく付いてる感ある体をされている。隣にいたので「近藤さん!」とおもわず一声かけると、、ちょっと照れたような返事を頂いた。春からは大学院に進学しつつ、実業団(GMO)にも所属し競技活動される。
— 近藤秀一 (@ksyu1run) 2019年1月4日
発表者は、博士過程の竹井尚也先生。日本学術振興会特別研究員(DC2)、海外研究も決まっている運動生理学のエリート研究者。前半の短距離/中距離の研究が、研究者としては主な功績かな。
トライアスロンでは?
ここでの例は、あくまでも14分3秒とか121分39秒で終わる世界ではあり、ミドルやロングのトライアスロンでは別ともいえる。ただ、デイブ・スコットが去年6月に渋谷で話していたことも、このスピード重視の考え方に近い。8時間のレースであっても途中で回復できるという考え方。
参考:私のブログの参加レポート
まとめ
ここまで読まれたアスリートなみなさんへの結論として、- LT域、レースペースやそれより遅いスピード域が練習の中心になっていて
- それで伸び悩んでいるという場合には
- Polarizedな乳酸大量産出タイプのトレーニングを増やして、それ以外を一気に低負荷化させるという方法を、一度試す価値があるかもしれない。
僕の経験
僕がトライアスロンを始めた2010年の春から2014年まで、基本はポラライズドに近いと思う。例えば- Runレースペース: 平坦レースでの10kmランパートが1 km 3分35秒ペース
- Run練習: 1000mを3分10秒台〜20秒台を目標に、1000m×5本くらい
- Bike練習: 2-3km区間を使い、同じく数分間で出せるほぼMAXをインターバルで
- 低強度(ゾーン1): 151以下
- 中強度(ゾーン2): 152-166、LT=閾値強度
- 高強度(ゾーン3): 167以上
2013年8月からのKONAチャレンジでは、LT域を中心に、Zone2域の時間を長くとって、ハワイへ乗り込む ↓
だから経験的に、このあたりの理論はすごく納得できる。僕がこの方法を取ったのは、英語情報いろいろみて、これくらいなら自分でもできそうなメニューだなとか、中途半端に量を積むと逆効果なんだな、とぼんやりと思ったという程度で、その頃はPolarizedという言葉は知らなかったけれども。
僕の本も、ノウハウ伝達目的の本ではないけど、過程はわりと書いてあります。Amazon→ 正規の新品が少ないので、欲しい方2000円で直送しています、メッセージください
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