- 関節や腱への物理レベルの負荷
- 細胞への生化学レベルの酸化ストレス
その先にある1つが、「スポーツ誘発型の心房細動」というリスクだ。
この最新科学をまとめたレビュー論文、「アスリートの心房細動の仕組み:わかっていること、わかっていないこと」※英語です="Mechanisms of atrial fibrillation in athletes: what we know and what we do not know" がバルセロナ大学の先生方により書かれ、2018年2月、オランダ心臓学会の学会誌に掲載されている。
レビュー論文とは、学界で評価の高い重要論文を、権威ある先生が整理したもの。まあ、権威なくても書くことは出来るんだけど、レビューという行為自体が上から目線なので、大学教授と名の付く人たちが尊敬するような大先生でないと受け入れられがたい、という実態もあるようだ。その結果、専門家向けのミニ教科書のようになるので、状況把握に便利。
その論文によると、スポーツ性の「心房細動」を発症するリスクが最も高いのは
- 激しい持久系トレーニングを
- 10年以上継続する
- 一見健康な中年男性
しかし残念なことに、どれくらいなら安全、といった基準を示せるだけのデータは世界的に存在しない。わかっていること/わかっていないことを整理すると、「発生確率が高い」という事実はデータで示されているが、「発生のメカニズム」は仮説にとどまり、どうすればいいのか?という「基準値」のようなものは存在しない。
発生メカニズムについての仮説とは、
- 激しい運動による心筋負荷
- 心筋の炎症
- 心筋の酸化ストレス
単なる教養であればこれくらい知ってれば十分なんだけど、実際プレイヤーの立場からすれば、正直、どうすればいいのかわからない。しかも権威ある論文で説明されたとなれば。。
そんな中で、自分自身のn=1での方針を決めるためには、わかっていることを根拠に、考え方を明らかにしながら、自分なりの仮説を立ててゆくほかない。
その結論を先に書いておくと、
- 心臓も(筋肉同様に)リカバリーさせる
- 抗酸化できる食事・睡眠
- ピーク期間のコントロール(長短のオフの活用)
大事なことを追記しておくと、
「激しい運動は健康に悪い」といったことが言われるけど、ここで説明することは、そうではない。激しい=高い心拍数が悪い、というわけではない。
そして、心臓のリスクはあるにせよ、運動による健康向上効果はトータル&平均では、より大きなものだ。
ここまでは概説。以下、少し詳しく説明していこう。
大きな構成は、
・知識まとめ: 心房細動、スポーツ誘発型の心房細動
・2つの意見: デイブ・スコット、GCNの専門医インタビュー
・考察: 疲労&リカバリー、期間
・結論
と計5,000字くらい、お時間ある時にゆっくりお読みください。
「心房細動」を理解しよう
はじめに大事なことを確認しておくと、心房細動は即死んでしまう病気じゃあない。「心房」とは心臓上部の、脈拍を調整するためのサブエンジンのようなもの。神経からの電気信号が集まる箇所でもあり、電気信号が暴走して、毎分400~600回など不規則に動くのが心房細動。でもそれ自体は単なる不整脈。
ヤバいのは下部の「心室」の細動。こちらはメインエンジンなので、誤作動したら即AEDが必要、さもなくば、、、
詳細は「不整脈 / 心房細動」by ジョンソン&ジョンソン社 などご参照上側の心房が細動すると、まず「胸がどきどきする」「胸の不快感」「胸の痛み」などストレートな症状が出る。
→ https://www.jnj.co.jp/jjmkk/general/pulse
心臓のポンプ機能が低下するので、「運動時の息切れ」も出てくる。実際この話は複数聞いたことがあり、他人事ではない。
最も怖いのは、細動により心房内に血栓(血液の塊)ができやすくなる。これが脳の血管にいくと脳梗塞。死んじゃう。高血圧、糖尿病、加齢(75歳以上)などが加わった場合にリスクが上がる。
通常、運動習慣はこれら成人病系のリスク要因を抑える。そのメリットとの差し引きになるわけだが、メリット以上に、心臓の酷使によるデメリットが上回る場合があるということだ。
心臓の機能低下なので、悪化すると、心不全につながることもある。(このレベルになっても運動を続けてる人は、そういない気もするけど)
「スポーツ誘発型の心房細動」とは
激しい持久系トレーニングを継続すると、心房細動のリスクが上がる。上記論文にはいろいろとデータが上がっているけど、体質差も大きいし、運動や生活の仕方からしてみんな違うわけで、いちいち挙げても仕方ないだろう。なる人はなるし、ならない人はならない。
同論文に書かれているエビデンスとして、
しかし、論文タイトルから "what we know and what we do not know" となっているくらいで、その仕組みや基準については、よくわからない部分が多いよ、とはっきり書いてある。
こんな時には、「わかっていること」について、より確度の高いものから順に、推測を積み上げていくしかない。
同論文に書かれているエビデンスとして、
- ヘビーに練習するアスリートは、心房細動リスクが平均3〜8倍高い
- ベテランのエリート・アスリートでの発症率は15%
- 若く心肺疾患がない患者の60%に激しい身体活動歴がある
しかし、論文タイトルから "what we know and what we do not know" となっているくらいで、その仕組みや基準については、よくわからない部分が多いよ、とはっきり書いてある。
こんな時には、「わかっていること」について、より確度の高いものから順に、推測を積み上げていくしかない。
学界において、仕組みとして推測されるのは、心房の拡大(心肥大)、そして線維化=本来の筋肉の働きが失われること。
その要因として怪しまれている容疑者が、
- 激しい運動による心筋負荷
- 炎症
- 酸化ストレス
など。(この説明は論文Table1の黄色い枠の表など)
詳しくはGoogle翻訳かけて元論文を読んでみてください。よくわからない、ということが、よくわかると思うから。
とはいえ、だんだん見えてきたものも多く、同時に世界の市民アスリートたちの関心も高まっていて、インパクト強い情報が、研究界のみならず、スポーツの現場からも立て続けに発表されている。2−3ほど紹介しよう。
詳しくはGoogle翻訳かけて元論文を読んでみてください。よくわからない、ということが、よくわかると思うから。
とはいえ、だんだん見えてきたものも多く、同時に世界の市民アスリートたちの関心も高まっていて、インパクト強い情報が、研究界のみならず、スポーツの現場からも立て続けに発表されている。2−3ほど紹介しよう。
意見A. デイブ・スコットの考え
まず伝説のトライアスリート&名コーチ、デイブ・スコットは、2018年6月の来日講演から、長距離選手の心臓の健康について対応を説明して説明している。
2019年3月に投稿された動画では、高強度×短時間トレーニングを推してる。
2019年3月に投稿された動画では、高強度×短時間トレーニングを推してる。
❝ 心拍数をあまり上げない長時間の運動は心臓に良い、と思われがちだけど、誤解。
高強度×短時間でメリハリを付け、心臓のポンプ機能を強化した方が、実は心臓は健康になる ❞
その前2月の動画 "Optimizing Your Heart Health" では、
❝ 長距離アスリートに心臓の問題が多いのは、量を詰め込み過ぎること、貧弱な食生活による ❞と、オメガ3系脂肪、抗酸化物質の摂取などを(サプリ=日本ではアスタヴィータ=の宣伝込みで)説明している。
炎症と酸化ストレスについての考え方は上記論文と共通する。高強度が心臓に良いとはデイブ独自見解。
デイブの指導理論は全て健康と結びついている。彼自身が、心房細動を持ち、アブレーション手術もしている。この経験を自分1人のものとせずに、世のアスリート全てが健康であるように、と活動するのが彼らしさだ。
同様にご自身の体験をもとに提言されるのが大阪で活動される溝端コーチののFb投稿 ↓
https://www.facebook.com/ycdgonow/posts/1205275562960692
心臓手術後26年に渡り耐久スポーツを楽しみながら、症状を抱えるアスリートへの指導もされている方だ。このブログも参照いただきながら、スマートウォッチなどの最新機器の日常的活用を勧めている。AppleWatch なども発展途上だけど、わかる範囲だけでも数値化し把握することには意味がある。
意見B. GCNの専門医インタビュー
この投稿の直後の2019/6/27, 今度はFbフォロワー100万超のGlobal Cycling Network(GCN)が「あなたの心臓は、サイクリングするのに、どの程度健康か?」という特集をしている。スポーツ心臓の専門家、自らアイアンマンも完走しているブリストル大学Dr Graham Stuart先生へのインタビューだ。
14分あたりから核心に入り、「やりすぎは心臓に悪いのか?」との質問に、- 長時間トレーニングを長年続けると、心房細動 (atrial fibrillation)のリスクはざっくり4−5倍に上がる
- でもそれ以上に、各種ガンなど致死的な病気を防ぐ健康効果は高い
- 結論として、トータルでは健康になるものだから。心臓など症状があるなら医者に相談を
という結論。
GCNは世界的な自転車動画メディアで、元はよくある一般人ブログかな?日本なら「IT技術者…」的な。元トップ選手の土井雪広さんを迎えた豪華な日本オリジナル版まで始めるほど成長している。この動画も、体裁こそラフだが、内容的にはTVの30分番組くらい濃い。
デイブもGCNも、SNSのコメントに体験談が多くて、切実な問題であることがよくわかる。
GCNは世界的な自転車動画メディアで、元はよくある一般人ブログかな?日本なら「IT技術者…」的な。元トップ選手の土井雪広さんを迎えた豪華な日本オリジナル版まで始めるほど成長している。この動画も、体裁こそラフだが、内容的にはTVの30分番組くらい濃い。
デイブもGCNも、SNSのコメントに体験談が多くて、切実な問題であることがよくわかる。
考察A. 疲労&リカバリー
以上ふまえ、まだわからないのは、「じゃあ自分ならどうするか」という話だ。ここからgは私の個人的な見方を軸に、考えてみよう。
この仕組みは、通常の骨格筋レベルでの疲労とリカバリーの関係と同じだ。
心臓&血管も、筋肉である以上は、同様にリカバリーが重要である、と理解できる。
- 高い負荷を心臓にかけた後、
- 中途半端な回復のまま、
- 次の高い負荷を積むことで、
- ある種の損傷が解消されないまま、拡大してしまう、
( "As for the right ventricle, it has been postulated that such damage develops after incomplete recovery between exercise bouts, thereby leading to permanent damage to the atria." などの記述より)そこで、リカバリーとは、単に時間的な空白だけでなくて、酸化ストレスに対しての抗酸化も必要。つまり野菜果物をたくさん食べろ!ということになる。
特に心臓の筋肉は特殊で、一生同じものを使い続ける必要がある。一度損傷したら、基本的には、回復しない。
個人的体験も書いておくと、僕が気をつけていたのは、高負荷トレーニングの後に、クールダウンの時間をかなり長く取っていたこと。よくある「メニュー後15分」とかではなくて、心臓を落ち着かせるまでの間、緩やかに身体を動かし続ける。数字で表しにくいけど、数時間はそんな状態が続く感覚で、その範囲内で時間の経過とともに必要なリカバリー作業が減っていく。その間はアルコールとかもあまり入れない。(缶1本くらいはOK)
これは知識とかではなく、身体の感覚として、やっておくと良い気がした。その方が心臓が落ち着いてくれて、次の高負荷トレーニングにスムーズに入れる感覚があったので。(逆に、高負荷トレーニングをするつもりでも、スムーズに入れなければ、即やめてた)
もっと現実的なリスクとしていうと、スポーツ性の心房細動で血栓が発生した時に、脱水で血液がドロドロしているほど、脳内で詰まりやすくなる。夏場、長時間、あるいは飲酒翌日などに起きやすい。水分補給はこの目的からも重要。
考察B. 10年間
ここは判断が難しいところだと思うけれど、「10年続けての発症が多い」とは、統計データをもとに、この論文筆者のバルセロナ大の先生が、「このあたり?」と引いた基準。単純に裏返せば「10年続けなければOK」となるけど、確率論なので、何年ならOK、という問題ではない。同時に、運動習慣による心身のメリットは大きいから、その+-バランスも関わってくる。そこで、自分ならどうする、という自己責任での判断になる。
※特に、こういう数字は断片だけ独り歩きしそうで怖い。そこをあえて書いているので、紹介などされる際には、まず根拠からきちんとご理解くださいね
僕がレース用の負荷を上げたトレーニングしてたのは2010初夏から2015春ごろまで、5年ほど。その中でも「ピーク」といえるのは2012年末からの10ヶ月だけ。「たぶんこういうことかな?」程度の話として書いている。
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