2019/11/16

タンパク補給の新常識を知っているか? -『科学的に正しい筋トレ 最強の教科書』 (庵野拓将, 2019)書評

[庵野 拓将]の科学的に正しい筋トレ 最強の教科書筋トレが流行るのはいいことだ。

スリムでいたい女性はダイエットでなく、まず筋トレのような運動から始めたほうがいい。

長距離アスリートでも、たとえば大迫傑さんは上体の筋力を高めることで走りを変えている。筋量が低下してゆく40−50代以降なら全員が考えるべきだ。

そこで練習メニューやプロテイン補給など、いろんな情報が入り乱れているけど、古かったり、今のあなた向きではなかったり、振り回されがちだ。たとえば「トレーニング後30分以内のプロテイン!」とはもう古いのだ。

そんな時に必要なのは、基本的な教科書。
『科学的に正しい筋トレ 最強の教科書』 (庵野拓将, KADOKAWA 2019)
はよく整理された良書だと思った。このブログでは、
  1. この本の特徴、役割
  2. なかみ
  3. 実践的な活かし方
について、情報魔トライアスリートとしての視点からお伝えしよう。

1.本書の役割

科学的であるとは「再現性がある(可能性が高い)」ということ。
でも一般人にはややこしいもの。この本は、いろいろな研究成果を体系的にストーリー立てて整理してくれる。鮮度もあり、ほぼ全てが2010年代、特にこの数年間の最新情報が中心だ。10年前の常識からどれだけ変わっているのかもわかる。

筋力トレーニング教徒たちに向け書かれているのは、表紙デザインからも明確なのだが、僕のようなロングディスタンス教徒でも重要な情報が多い。特に40代からは放っておくと筋肉量が減っていき、パフォーマンスのリミッターorボトルネックになってしまうから。


2.なかみ - 栄養編

冒頭、「科学的に正しい」とはどういうことか説明されてるの良き。
順序として、単発の研究論文があり、それらまとめた研究横断型の「メタアナリシス」「システマティックレビュー」(レビュー論文)がある。本書は、レビュー論文をさらに整理しているので、重要度や関連性もわかる。

そして序章の「7つの新常識」で概要がわかる。

あとは、自分が知りたいところだけをツマミ食いすればよし。僕に一番役に立ちそうなのが3章、栄養の研究成果だ。このポイントを紹介しておこう。(残りは本でどうそ)

a) 筋トレ後補給タイミングの新常識

  • 昔: トレーニング後30分以内の「ゴールデンタイム」にタンパク質を摂れ
  • 最新: トレーニング後1〜3時間ほどが筋タンパク質の合成速度が最も高く、少なくとも24時間は有効 
まず基本は、トレーニング後にタンパク質を摂取すると、筋タンパクの合成量が顕著に増加する。

問題はタイミングで、昔は「30分間がゴールデンタイム」と言われていた。根拠は2000年の論文(テキサス大学ラスムッセン等)で、僕も最近まで信じ込んでいた。思うに、プロテインなど栄養補助食品会社にとってとても都合のよい結果なので(30分以内の補給には普通食品では難しい)、こういう情報は広告資金とともに拡散しやすい。

しかし2014年、「24時間以内であれば良い」というの研究が登場、以後それを支持する研究成果が続々。国際スポーツ栄養学会も2017年に公式見解として発表している。

逆に言えば、一日中、栄養に気をつける必要があるということだ。普通の食事から、きちんとタンパク質を含むバランスの取れたご飯を食べることが重要。

また、「ゴールデンタイム説」で併せて言われていた、「筋トレ後タンパク質と糖質を一緒に摂取してインスリンを分泌させる」という方法論も、現在は不要とされている。インスリン分泌の効果はあるけど、糖だけでなくタンパク質単体からでも起きることがわかったからだ。これは2016年のレビュー論文による。低糖質でのファットアダプテーションではこの方法が根拠となる。
あくまでも筋タンパクの話であり、筋グリコーゲンの回復はまた別の話だ。糖質、もしくは脂質からのケトン産出/タンパクからの糖新生により、補充することになる。


b) タンパク摂取量の新常識

  • ざっくり、体重あたり1g-2gを毎日摂ればいい
  • トレーニングの理想は1.6g
1例として、十分な筋力トレーニングをしている体重70kgの若者なら、一食あたり27 g×3食、 就寝前35g、計116gのタンパク質を摂るのは1つの理想。体重が8割の56kgなら0.8を掛けて計93g。

意外なのは年齢で、若者よりも高齢者の方がタンパク質を多く摂る必要がある。加齢によりタンパク質の合成能力(同化能力)が減っていくからだ。

ある研究では、最適なタンパク質の一食あたり最適値は、20代の若者は体重1kg当たり平均0.24g(0.18-0.30)、70代の高齢者では平均0.4g(0.21-0.59)。例えば体重65 kgで、若者は平均16g、 高齢者では26g。中間の40代ならその中間ぐらいで良いだろう。

※1つ目と数値が違うのは、研究の目的や条件が違うから。科学的エビデンスとはそういうもの。


c) タンパクの内訳

  • 昔: タンパク質の摂りすぎで腎臓病リスクが上がる
  • 最新: 赤身肉(牛豚系)を大量に摂った場合だけリスクある
赤身肉の大量摂取は、腎臓病の発症、末期腎臓病の悪化といったリスクを上げる。これは2017年に発表された、男女6万人、15年間という大規模な研究成果による。また1日1食分の赤身肉の摂取を白身肉や魚に代替するだけで腎臓病悪化リスクは最大6割以上減少。
他にも同様な研究があり、白身肉や乳製品のタンパク質は腎臓にダメージを与えないともされる。

結論として、1日あたり体重1.6gのタンパク質の摂取量は、過剰な赤身肉を控える限り、腎臓ダメージは少ないだろう、となった。

赤身肉の害とは、消化の過程で酸を生成し、腎臓に対して毒性を引き起こすから、と考えられている。

赤身肉とははっきりいえば、哺乳類だ。もっといえば同類食。僕は普通にいただくのだけど、貴重な生命をいただいているのであり、「いただきます」とは昔の刺客の「お命頂戴」と同義なのである。それも生命の因果なのだが、やりすぎると報いもあるのだろう、と宗教的なことを書いてみた。

植物由来のタンパクは最近人気。
実は、野菜のタンパク質は意外と量が多く、質もわりと高い。「アミノ酸スコア」=必須アミノ酸のバランスが足りないものは多いので、組み合わせが大事ではある。米は単体では60台/100なので、大豆製品と併せてきたわけだ。これら穀類や野菜類の計算もれで、思ったより多く摂っている、という人もいそうな気がする。


d) プロテインパウダーと食品の関係

これらトレーニングと筋トレとの関係は、プロテインパウダーで実験されることが多く、全て食品由来の場合にどうなのかは、あまり研究されていない。こういう全体図がきちんと示されるのも、本書のよいところだ。

僕思うに、実験の管理がものすごく面倒になるからだろう。正確なたんぱく質の量を全員分、把握すること自体が難しい。すると明確な成果を出すことができない。すると大学院のポスドクさんが就職できなくなってしまう。

ということは、たとえば「吸収量の限界」も、普通の生活と違うわけだ。空腹時にプロテイン粉末で実験すれば、吸収が速いから、限度量が少なめに出るだろう。普通の食事なら吸収は緩やかなはずで、より多くの量を摂っても吸収してくれるだろう。
この視点がないと、余計なタンパク量計算で疲弊しがちだ。

自然食品について(数少ない)わかっていることの1つに、牛乳の実力が高い。牛乳はインスリンの分泌を促進するので、筋肉の分解も抑制しながら、新たな筋合成を促進してくれる。そのためには無脂肪乳よりも乳脂肪入りの全乳の方が効果が高い。また全乳は筋肉痛の回復効果も高い。 
参考: 【牛乳ほぼ最強説】プロテイン製品の過剰評価、ホエイ/ガゼインの誤解について 2019/02ブログ
同様に、卵全体の効果もとても高い。映画ロッキーでは白身だけ何個も食べているシーンが出てくるけれども、本当は卵黄も一緒に摂ったほうが効果が高い。

なお昔の研究では、卵の黄身はコレステロールが心臓病の原因になると言われていたけれども、現在では黄身に多い善玉コレステロールは積極的に摂る必要があるとなっている。

一般に、食品まるごと取ったほうが効果高いはずだと僕も思う。牛乳と卵は、生命体まるごと、みたいなもんで、優秀はなずだ。
プロテインなどの栄養補助食品とは、意図的にある部分だけ取り出したものだから、効果としては劣ったものになることが多いとも思う。だから栄養「補助」食品と名付けれている。

(両親の宿泊先で朝ごはん合流@二子玉川)

3.実践的な活かし方

10年前の常識がこれだけ変わるのはなぜかというと、以前は限れた条件だけを粗い方法で実験しただけ、その抜け漏れ含めてしっかり実験したらこうなった、ということだろう。

あくまでも「現時点での最新」であり、アップデートは常時必要。本書では著者ツイッターで追える: https://twitter.com/takumasa39

ここまでの文章をひっくり返すようなことを書いておくと、僕はそもそも、科学的エビデンスと言われるものをあんまり信じてはいない。やたらエビデンスえびでんす言ってくるエビ教徒さんからも少し距離を置いている。
なぜなら、科学論文の多くは細かすぎたり、状況が特殊過ぎたりするから。また「その実験で分かったこと」しかわからず、わかってない範囲のほうが遥かに大きいから。つまり、全体状況を俯瞰することがとてもむずかしい。

知っていること、信じること、実行すること、はそれぞれ別だ。
僕のスタンスは、知っておくが、信じずに、雑に実行してみる。

たとえば薬剤師なら、決められたガイドラインに基づいて正確な量やタイミングで実行する必要がある。知って、信じて、実行する。
僕の考えでは、スポーツ選手は違う。
雑に理解し、テキトーに決めて、徹底的に練習しろ。

僕は一切計算せず、食欲に任せている。人体とはそういうふうに出来ていると思う。ただし睡眠を十分に取れている場合に限る。

食べるタイミングについては、実感として、とはいえ1時間以内には食べたい。実際このタイミングで食べるものは何でも美味い。牛乳や豆乳にココアパウダーとバナナで飲むだけで美味い。ホールフードは吸収時間かかるし、空腹時に糖新生(=筋肉の分解)が進むことまで考えてみても(気にしないけど)、1時間以内は1つの目安にしていいとは思う。

「わかっていること/まだわからないこと」が明確なら、「わかっていること」を出発点に、自分なりの試行錯誤を効率よく進めることができる。

 
(Kindle Unlimited対象、会員無料)

(ちなみにAmazon、トップレビューが否定的で、そこに最大の「役に立った」が入ってるの、Amazonあるあるだ。
自分で実証して、自分で実験して、それで間違えでもいいから意見を言ってほしい❞ というのも1つの価値観だから好きにすればいいけど、それは、本書でいえば「レビュー論文」を否定するようなもので、視野を狭めて情報入手に歪みを発生させてしまう。まあ、自分の好きなものを選んでいけばいいと思うけど。微笑) 

※お知らせ:最近は"note"に書いてます

https://note.mu/hatta_masu


今回は実験的にこちら復帰。でもNoteのUIに慣れるとブログは書きにくく感じる。「ブログ」とは15年くらい前のガラケー全盛期の化石的システム、noteは最新の技術とデザインが投入され続けてていて、文章がサクサク書けてデザインも良いので。

ただマニアックすぎる個人的な話は引き続きこの化石システムに書いていくかもです。間違ってたくさん読まれると迷惑なので笑

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それぞれ別の話を書いてるので、よろしければそれぞれフォローくださいな。


2019/07/14

"見えているものが違う"という現象 - 『すぐ「決めつける」バカ、まず「受けとめる」知的な人』(安達裕哉,2019)書評

なぜネットが荒れるのか?

なぜなら、同じものを見た時に、「見えているもの」がそれぞれに違うから。

出発点である現実が(主観的に)違うわけだ。
そのズレを放置したまま、「正しいと思ったこと」をそれぞれが言い合う。
これでは、お互いがバカに見えて当然。
こうして、見えているものの違い=認知の歪みが、人間関係まで歪ませる。

それはリアル社会でも同じ。ネットでは引っ込めば済むけど、リアル社会は身体を伴う世界、逃げ場所が限られる。その心的ストレスは時に身体的ストレス=鬱病=脳の外傷に近いもの=にまで至る。

こんな状況を独自の視点で描くのが、人気ウェブメディアBooks&Apps主催、安達裕哉さん2019年2月の著書: 『すぐ「決めつける」バカ、まず「受けとめる」知的な人』
なぜそうなるのか? そんな時どうすればいいのか? をビジネス人の目線で説明している。

「認知的不協和」が世界を歪ませる

認知のズレはいろいろな理由で起きるけど、「1つの頭の中で、2つの情報が一致していなくて、気持ち悪い」というケースが多い。その人間心理をシンプルに理解するために、「認知的不協和」という心理学の概念は良いメガネとなるだろう。

定義は、"人が自身の中で矛盾する認知を同時に抱えた状態、またそのときに覚える不快感"  (wiki)。たとえば、
A) 私は、◯◯が好き
B) ◯◯にはデメリットがある
という状況を考える。
ABは客観的には矛盾しないが、本人の頭の中では不協和だ。

ここで合理的な態度とは、「デメリットを理解しながら好きでいつづける」「嫌いになること。しかし人間心理にはバイアスがかかり、
"そのデメリットは嘘"
"提唱してるのは悪人"
などと世界を認識し直すことで、頭の中の不安を解消しようとしがちだ。

一般化すると、❝私は◯◯が好きという主観的な「認知」を優先させ、客観的な「事実」サイドを変える❞ という圧がかかる。それが認知的不協和。

Photo by Vincent van Zalinge on Unsplash
上記Wikiに載っている喫煙者の不協和はわかりやすい。
  • 私はタバコ好き
  • タバコで肺ガンになる
という不協和な2つの情報に戸惑った喫煙者が、
  • タバコ吸っても長生きする人もいる
  • 交通事故の方がもっと危険
  • ストレス抱えた不健康な人がタバコに手を出しているだけ、どうせ病気になる
  • むしろストレス緩和できている
  • 誰かの陰謀だ
などなど情報を追加することで気を紛らわせ、「タバコはそれほど悪いものじゃない」とタバコ好きな自分を守ろうとする。
これによって肺ガン増加という「事実」がなくなるわけではないけど、タバコは体に悪いという「認知」のレベルでの不安なら薄めることができる。

合理的な態度とは、「タバコは体に悪い、でも心にはウマい」と、事実は事実として受け止めること。そこから「1日◯本に制限する」とか、「体より心、どうなるかわからない将来よりも確実にここにある今」など弁証法的に思考を発展させることもできるだろう。

でもそれは「私は合理的な人間だから、そもそも体に悪いことなどしない」というアイデンティティを持つ人には、難しい。

被災地のデマ

大震災の時など、いろんなデマや陰謀が飛び交ったものだ。おそらく今となっては言いふらしていた人も忘れているようなトンデモなものが。

その心理的仕組みは、被災者ではないけど報道で知った、というレベルの人には「ぼんやりとした大きな不安」が生まれ、その解消のために「もっと強烈な不安」の存在が役に立つからだ。

本来は自分自身で解決するべき不安を、(存在しない架空の)悪人のせいにすることで、「悪いのは全部アイツだ」と責任転嫁しているわけだ。
陰謀論のたぐいも多くはこれだろう。

なお「・・的」という学術用語は「・・についての」と読み替えるとわかりやすく、ここでは「認知についての不協和」と読み替え可能だ。「事実について」は何の矛盾もないわけだから。

人には「分かりたくない時」がある

安達裕哉さんの文章がおもしろいのは、そこから。
なぜそうなるのか? という洞察、
現実にどう対応すればいいのか?というビジネスへの応用だ。

洞察とは、
  • 人は、信念や直感に反することは、理解したくないので
  • 自分の信念を肯定する証拠を、意図的に探したり
  • 情報をシャットアウトして、信念を守ろうとすると
ということ。

これらは人間の(or 社会的動物としての)本能に由来するものであるから、つまりは、人は誰でも(どんなに頭の良い人でも)バカになる、ということだ。

鋭い。

実際、著名な企業経営者などにも起きている事態なわけで、かつてのGM社の名経営者アルフレッド・スローン氏も、この事態を真剣に恐れていたエピソードが紹介されている。

こんな「バカの壁ブロック」を突破するのが、仲間、というポジション。人は(もっといえばあらゆる動物は)他人は信用しなくとも、仲間なら信用するものだから。
そこから、人望の本質とは仲間意識を得る能力、という洞察も導かれる。鋭い。

どうすればいいのか?

不都合な真実ほど、理解しておくべきだ。
人の心理が、それを正面から受け止めることができない、ということまで含めて。

人間関係では、相手の話から、「この人には何が見えているのか?」を推測する知的能力が必要。

相手も相手なりに合理的に考え行動しているのだから、相手を尊重する態度も必須。

そして自分自身のコンフォートゾーンを意識して、そこから外れたものにアンテナを意図して向けることが、自分への態度として大事だと思う。

コンフォートゾーン外=やる気が出ない=単純にまだ始めていない=だから脳の側坐核が活性化していないということ。まず行動することだ。

"他者を攻撃することで有能さを示そうとする人"

この本は、認知の歪みについて、それがもたらす人間関係の歪みについて、いろいろな視点から書かれている。
Amazonレビューでおもしろいのは、「全く本題の答えになっていない」という低評価コメントが、最も多くの参考になった票を集めていることだ。

現実のビジネスの場面では、そんなこと言ってたら仕事にならないし、然るべき人からは「他者を攻撃することで有能さを示そうとする人」というレッテルを貼られる末路が待っているだろう。

ただ、理系の学者とか、ロジックだけで回っている世界では、そんな視点こそ重要な場面もあることだろう。レビューも結果だけ見るのは無意味で、「なぜこの人はこの評価をつけたのか?」という裏側まで想像してみると発見がでてくる。




情報発信者にとっての応用

この認知的不協和とは、以前のブログ
ネット発信論3. ブレーキ要素を「認知的不協和」理論で解剖する(2019/04/27)
でも書いた通り、いろいろ応用できて便利な概念だ。

たとえばネット発信していて、暗闇から石が飛んでくる的な状況がストレスになってる方にとって、暗闇のLEDライトのごとく状況可視化するための道具になるだろう。石を投げた人間は実は不安に怯え恐怖からパニクっているだけだとわかるのと、正体不明なままなとは、心理的負担が違うと思うから。


<ついでに紹介>
王者不在の混戦でおもしろくなってきたツール・ド・フランス2019、
AmazonプライムビデオのJSPORTS無料体験14日間で見れる。


14日間なので、今からシャンゼリゼ広場のゴールまで見届けられそう。
来年も見るなら有料会員で!

2019/07/07

「失敗情報」こそ知るべきである ー 白人最速ライアン・ホール&カノーヴァ先生の事例

成功と失敗は一体

成功と失敗はセット。
失敗の中から、成功は生まれるから。

そして人体という有限リソースを使うのがスポーツ。
「成功するやり方を、やり過ぎて、失敗する」という事がよく起きる。
己の能力の限界を極めるとは、そんな成功と失敗の境目を見極めるということだ。

それはクラッシュしない限界速度でコーナーに入るようなもの。成功シナリオは実現しなくても「残念でした」で済むけど、失敗シナリオの方は、起きた時に、取り返しのつかないダメージになることもある。

でも成功事例は世に出やすく、失敗ほど出てこないもの。成功者にとって、成功事例を語るor ドヤる のはそれ自体がある種の心理的報酬になる。それをパターン化すれば、華やかで夢のある話になる。みんながHAPPYになれる。

でも成功のしかたは人それぞれ。その人の遺伝子、性格、環境、目標、等々が複雑に作用するものだ。さ核心部分ほど言語化が難しい。隠している(こともあるだろうけど)のではなく、伝えたくとも言葉で伝えられないから。

むしろ失敗事例をパターン化した方が、現実に使える情報になると思う。
知っていれば避けられることも多い。

だから、失敗事例は希少となり、貴重となる。バランスとしても、より価値があるのは失敗事例の方だと思う。
僕もこれまで失敗ケースについての発信をしてきたけど、自分が気になったことが情報不足で、しかたなく調べてみたらこれまで日本語になっていなかった、ということが割とある。書きながら気が重たいことも多かったけど、結果としては感謝をいただくことが圧倒的に多い。

今回取り上げるのは、マラソン2時間4分台というアメリカ白人ランナーとして当時の最速記録を出したライアン・ホール選手の失敗を取り上げる。テーマは「休養・リカバリー」の重要性についてだ。


ランニング指導の「成功例」レナート・カノーバ

レナート・カノーバ(Renato Canova)は、中長距離走のコーチとして、オリンピック等のメダル獲得48個。NHK「奇跡のレッスン走れ!苦しみの向こうへ 陸上 長距離」(2019.02)でも登場している。
僕も

など、これまで「成功例」として何度か紹介してきた。

その指導法は、ケニア拠点のプロ・ランナー池上秀志さんブログ「レナト・カノーヴァから学ぶマラソントレーニング」(2019.02) が最新、かつ信頼性も高い。

要点まとめると、トレーニング手法の特徴として「特異性」「リカバリー」「高強度な練習の量」「変化走」の4つが挙げられている。
僕思うに(というか明らかに)、最も特徴的なのは「特異性」=マラソンの競技内容に近いもの=距離はハーフマラソン以上、ペースはマラソンレースの90%以上=という練習の重視だ。

その結末についても池上さんは正直に、「練習でここまでやってしまうと、レースで結果を出せなくなる選手の方が多いのも事実です。」と書かれている。

この成功と失敗とを分けるのは、2つめの要素「リカバリー」だ。練習がキツいから、休養を増やす。方法論としては極めて合理的。「ジョギングはトレーニングにならないのにリカバリーを遅らせる、だったら家で寝ている方がまし」なんて言葉もある。これ僕も同感。

Photo by Alexander Possingham on Unsplash

カノーバ指導の「失敗例?」ライアン・ホール

そんなカノーバの指導のもとで競技引退につながる失敗をしたのが、アメリカ白人最速ランナー、ライアン・ホール選手。2011年ボストンマラソン2時間4分58秒(非公認)、公認記録では2008年ロンドン2時間6分17秒。北米公認記録はモロッコからアメリカに帰化したアーリド・ハヌーシ2時間5分38秒(2002 ロンドン)だけど、素直な感情としては、アメリカ人最速、と言ってしまっていいだろう。ハーフマラソンも59分43秒と速い。ボストンは下りが多くて非公認だけど、公認のロンドンやベルリンだって下り基調だし、白人として4分台を出した実績は歴史に残る。

ホール選手は2010年までランニングクラブで練習していたが、その後、単独練習に切り替えて、翌年のボストンを迎える。この時に練習内容を相談していたリモートのコーチが、トライアスロン指導者のマット・ディクソン (Matt Dixon)。僕も何度か紹介してきた、徹底したリカバリーを強調するコーチだ。

惜しむらくは、ホールは休む、ということが嫌いだった。休養をカットして追い込むようになっていき、2012年のロンドン五輪は途中棄権。
それを自分の弱さと見て、カノーバコーチの指導を仰ぐ。単独練習のスタイルを保ち、別の街に住みながら情報だけやりとりしていたので、疲労状況=実際に走っている状況、動き、表情、等々までは伝わらない。コーチからリモートで練習内容の指示が来て、ホール選手はこのうちアクセル部分を受け取り、ブレーキ指示を軽視してしまった。

その結果、オーバートレーニング状態を慢性化させる。次の完走は2014年ボストンマラソン、タイムを9分落としている。「走り始めて15分で電池が切れたように足が止まってしまう」という状況になり、2016年に33歳で引退する。


成功と失敗を分けるもの

ここで失敗したのは、カノーバの方法論ではなく、ホールの「実行のしかた」。
同様のケースは、世の「成功事例」とされるものの周辺に、多数あるはずだ。

ライアン・ホールは人並みはずれて頑張れる人で、その努力を武器に、フレッシュな28歳頃までは伸び続けていた。
でもその武器は諸刃で、同時に最大の弱点ともなってしまう。休養すると不安になってしまい、頑張る。ダメージの蓄積が、30手前で急ブレーキをかけることになった。

その状況に客観的に気付くことなしに、さらなる「アクセル」を求めて、世界最速コーチによる、世界的にも最もシビアなアクセルを踏みはじめしまったわけだ。

この時、ホール選手に必要だったのは「自分自身を客観視する」こと。
でもそれは1人では難しいもの。
現実的には「失敗事例の知識」だったと思う。

実際、休養コーチのマット・ディクソンは、自身がプロ・トライアスリートであった90年代の現役時代に、休養不足のために伸びなかった、という失敗経験を持っていて、その失敗を昇華させてコーチとして成功している。ただ、世界最高を目指していたホールには、ものたりなかったのだろう。

「実行方法」まで極めるためには、現地で一緒にトレーニングすることで対応できる。その後、白人最速となったノルウェーのモーエン選手は、ケニアで生活までともにして、カノーバ流で成果を挙げている。
過去記事: マラソン欧州記録更新、ソンドレ・モーエン選手(とカノーバ コーチ)トレーニング説明は金言の宝庫! (2017.02)
ただ普通、ケニア生活できないわけで、現実的にできることは、「その成功事例に基づいた失敗事例」を知っておくことだ。


情報の限界

このような状況は、あらゆる分野で、多数あるわけだ。

さらに「成功事例は世に出やすく、失敗ほど出てこない」という冒頭に書いた仕組みにより、より強化されてしまう。

経験豊富な指導者がその場にいて、一緒に活動できているのであれば、この境界の問題は解決できる。見ればわかるだろう。結果として伝わればよく、言葉にすることの重要度は低い。

問題は、セルフコーチのような、抽象化された情報を第一のよりどころとする場合に、成功例のアクセルワークだけが伝わりがちな状況だ。

つまり、文字情報で「成功例」を伝えようとする時、「失敗例」はより強く意識して伝えなければ、相手を失敗へと導きかねないというリスクがある。

だから紙でもネットでも、言葉で伝える場面ほど、マイナスにこそアンテナを向けて、踏み込んでいくことが重要になってゆく。


参考書籍

ホール選手のエピソードは、『Good to Go 最新科学が解き明かす、リカバリーの真実』(2019.03, クリスティー・アシュワンデン)より。Amazon書評の平均は低いけど、5点と1点に割れているからで、この手の極端に割れる本は(5点がサクラでない場合は)面白いことが多い。


Matt Dixonコーチの方法論に興味ある方、最新刊 ↓
"Fast-Track Triathlete: Balancing a Big Life with Big Performance in Long-Course Triathlon"  (2018.01)は、英語だけどKindleとGoogle翻訳でどうぞ。(僕は未読です)

僕自身のトレーニングとリカバリーについての思考と身体感覚については、自著『覚醒せよ、わが身体。 トライアスリートのエスノグラフィー』(2017.09)に詳しく書いておきました。

(Amazonのは定価新品以外は買わないでね)

あとホールがカノーバに師事しようというタイミングでの英語記事がこちら:RunnersWorld2012.12記事

2019/06/22

長距離スポーツの心房細動リスク

" スポーツは身体に良い " とは、だいたい正しいけど、
  • 関節や腱への物理レベルの負荷
  • 細胞への生化学レベルの酸化ストレス
などなど副産物にも対応してゆくことになる。
その先にある1つが、「スポーツ誘発型の心房細動」というリスクだ。

この最新科学をまとめたレビュー論文、「アスリートの心房細動の仕組み:わかっていること、わかっていないこと」※英語です="Mechanisms of atrial fibrillation in athletes: what we know and what we do not know" がバルセロナ大学の先生方により書かれ、2018年2月、オランダ心臓学会の学会誌に掲載されている。

レビュー論文とは、学界で評価の高い重要論文を、権威ある先生が整理したもの。まあ、権威なくても書くことは出来るんだけど、レビューという行為自体が上から目線なので、大学教授と名の付く人たちが尊敬するような大先生でないと受け入れられがたい、という実態もあるようだ。その結果、専門家向けのミニ教科書のようになるので、状況把握に便利。

その論文によると、スポーツ性の「心房細動」を発症するリスクが最も高いのは
  • 激しい持久系トレーニングを
  • 10年以上継続する
  • 一見健康な中年男性
おそらく普通の同世代と比べて見るからに元気で、社会的にも大事な役割を担う方が多いことだろう。あなたのような人かもしれない。

しかし残念なことに、どれくらいなら安全、といった基準を示せるだけのデータは世界的に存在しない。わかっていること/わかっていないことを整理すると、「発生確率が高い」という事実はデータで示されているが、「発生のメカニズム」は仮説にとどまり、どうすればいいのか?という「基準値」のようなものは存在しない。

発生メカニズムについての仮説とは、
  • 激しい運動による心筋負荷
  • 心筋の炎症
  • 心筋の酸化ストレス
などを原因に、心筋の線維化、神経伝達回路の障害などの症状が進行してゆく、ということ。これらの原因は、これまでも強調されてきた基本的なことに留まる。

単なる教養であればこれくらい知ってれば十分なんだけど、実際プレイヤーの立場からすれば、正直、どうすればいいのかわからない。しかも権威ある論文で説明されたとなれば。。

そんな中で、自分自身のn=1での方針を決めるためには、わかっていることを根拠に、考え方を明らかにしながら、自分なりの仮説を立ててゆくほかない。

その結論を先に書いておくと、
  1. 心臓も(筋肉同様に)リカバリーさせる
  2. 抗酸化できる食事・睡眠
  3. ピーク期間のコントロール(長短のオフの活用)
など、これまで書いてきた通りの基本に行き着くかなと思った。

大事なことを追記しておくと、
「激しい運動は健康に悪い」といったことが言われるけど、ここで説明することは、そうではない。激しい=高い心拍数が悪い、というわけではない。

そして、心臓のリスクはあるにせよ、運動による健康向上効果はトータル&平均では、より大きなものだ。

ここまでは概説。以下、少し詳しく説明していこう。
大きな構成は、
・知識まとめ: 心房細動、スポーツ誘発型の心房細動
・2つの意見: デイブ・スコット、GCNの専門医インタビュー
・考察: 疲労&リカバリー、期間
・結論
と計5,000字くらい、お時間ある時にゆっくりお読みください。


「心房細動」を理解しよう

はじめに大事なことを確認しておくと、心房細動は即死んでしまう病気じゃあない。

「心房」とは心臓上部の、脈拍を調整するためのサブエンジンのようなもの。神経からの電気信号が集まる箇所でもあり、電気信号が暴走して、毎分400~600回など不規則に動くのが心房細動。でもそれ自体は単なる不整脈。

ヤバいのは下部の「心室」の細動こちらはメインエンジンなので、誤作動したら即AEDが必要、さもなくば、、、

詳細は「不整脈 / 心房細動」by ジョンソン&ジョンソン社 などご参照
→ https://www.jnj.co.jp/jjmkk/general/pulse
上側の心房が細動すると、まず「胸がどきどきする」「胸の不快感」「胸の痛み」などストレートな症状が出る。

心臓のポンプ機能が低下するので、「運動時の息切れ」も出てくる。実際この話は複数聞いたことがあり、他人事ではない。

最も怖いのは、細動により心房内に血栓(血液の塊)ができやすくなる。これが脳の血管にいくと脳梗塞。死んじゃう。高血圧、糖尿病、加齢(75歳以上)などが加わった場合にリスクが上がる。
通常、運動習慣はこれら成人病系のリスク要因を抑える。そのメリットとの差し引きになるわけだが、メリット以上に、心臓の酷使によるデメリットが上回る場合があるということだ。

心臓の機能低下なので、悪化すると、心不全につながることもある。(このレベルになっても運動を続けてる人は、そういない気もするけど)

「スポーツ誘発型の心房細動」とは

激しい持久系トレーニングを継続すると、心房細動のリスクが上がる。上記論文にはいろいろとデータが上がっているけど、体質差も大きいし、運動や生活の仕方からしてみんな違うわけで、いちいち挙げても仕方ないだろう。なる人はなるし、ならない人はならない。

同論文に書かれているエビデンスとして、
  • ヘビーに練習するアスリートは、心房細動リスクが平均3〜8倍高い
  • ベテランのエリート・アスリートでの発症率は15%
  • 若く心肺疾患がない患者の60%に激しい身体活動歴がある 
等々の結果が、数々の大規模調査により報告されてきた。

しかし、論文タイトルから "what we know and what we do not know" となっているくらいで、その仕組みや基準については、よくわからない部分が多いよ、とはっきり書いてある。

こんな時には、「わかっていること」について、より確度の高いものから順に、推測を積み上げていくしかない。

学界において、仕組みとして推測されるのは、心房の拡大(心肥大)、そして線維化=本来の筋肉の働きが失われること。

その要因として怪しまれている容疑者が、
  • 激しい運動による心筋負荷
  • 炎症
  • 酸化ストレス
    など。(この説明は論文Table1の黄色い枠の表など)

    詳しくはGoogle翻訳かけて元論文を読んでみてください。よくわからない、ということが、よくわかると思うから。

    とはいえ、だんだん見えてきたものも多く、同時に世界の市民アスリートたちの関心も高まっていて、インパクト強い情報が、研究界のみならず、スポーツの現場からも立て続けに発表されている。2−3ほど紹介しよう。

    意見A. デイブ・スコットの考え

    まず伝説のトライアスリート&名コーチ、デイブ・スコットは、2018年6月の来日講演から、長距離選手の心臓の健康について対応を説明して説明している。

    2019年3月に投稿された動画では、高強度×短時間トレーニングを推してる。
    ❝ 心拍数をあまり上げない長時間の運動は心臓に良い、と思われがちだけど、誤解。
    高強度×短時間でメリハリを付け、心臓のポンプ機能を強化した方が、実は心臓は健康になる ❞

    その前2月の動画 "Optimizing Your Heart Health" では、
    ❝ 長距離アスリートに心臓の問題が多いのは、量を詰め込み過ぎること、貧弱な食生活による ❞
    と、オメガ3系脂肪、抗酸化物質の摂取などを(サプリ=日本ではアスタヴィータ=の宣伝込みで)説明している。

    炎症と酸化ストレスについての考え方は上記論文と共通する。高強度が心臓に良いとはデイブ独自見解。

    デイブの指導理論は全て健康と結びついている。彼自身が、心房細動を持ち、アブレーション手術もしている。この経験を自分1人のものとせずに、世のアスリート全てが健康であるように、と活動するのが彼らしさだ。

    同様にご自身の体験をもとに提言されるのが大阪で活動される溝端コーチののFb投稿 ↓
    https://www.facebook.com/ycdgonow/posts/1205275562960692
    心臓手術後26年に渡り耐久スポーツを楽しみながら、症状を抱えるアスリートへの指導もされている方だ。このブログも参照いただきながら、スマートウォッチなどの最新機器の日常的活用を勧めている。AppleWatch なども発展途上だけど、わかる範囲だけでも数値化し把握することには意味がある。


    意見B. GCNの専門医インタビュー

    この投稿の直後の2019/6/27, 今度はFbフォロワー100万超のGlobal Cycling Network(GCN)が「あなたの心臓は、サイクリングするのに、どの程度健康か?」という特集をしている。スポーツ心臓の専門家、自らアイアンマンも完走しているブリストル大学Dr Graham Stuart先生へのインタビューだ。
    14分あたりから核心に入り、「やりすぎは心臓に悪いのか?」との質問に、
    • 長時間トレーニングを長年続けると、心房細動 (atrial fibrillation)のリスクはざっくり4−5倍に上がる
    • でもそれ以上に、各種ガンなど致死的な病気を防ぐ健康効果は高い 
    • 結論として、トータルでは健康になるものだから。心臓など症状があるなら医者に相談を
    という結論。

    GCNは世界的な自転車動画メディアで、元はよくある一般人ブログかな?日本なら「IT技術者…」的な。元トップ選手の土井雪広さんを迎えた豪華な日本オリジナル版まで始めるほど成長している。この動画も、体裁こそラフだが、内容的にはTVの30分番組くらい濃い。

    デイブもGCNも、SNSのコメントに体験談が多くて、切実な問題であることがよくわかる。

    考察A. 疲労&リカバリー

    以上ふまえ、まだわからないのは、「じゃあ自分ならどうするか」という話だ。ここからgは私の個人的な見方を軸に、考えてみよう。

    この仕組みは、通常の骨格筋レベルでの疲労とリカバリーの関係と同じだ。
    心臓&血管も、筋肉である以上は、同様にリカバリーが重要である、と理解できる。
    • 高い負荷を心臓にかけた後、
    • 中途半端な回復のまま、
    • 次の高い負荷を積むことで、
    • ある種の損傷が解消されないまま、拡大してしまう

      と僕は理解した。
      "As for the right ventricle, it has been postulated that such damage develops after incomplete recovery between exercise bouts, thereby leading to permanent damage to the atria." などの記述より)
      そこで、リカバリーとは、単に時間的な空白だけでなくて、酸化ストレスに対しての抗酸化も必要。つまり野菜果物をたくさん食べろ!ということになる。

      特に心臓の筋肉は特殊で、一生同じものを使い続ける必要がある。一度損傷したら、基本的には、回復しない。
      個人的体験も書いておくと、僕が気をつけていたのは、高負荷トレーニングの後に、クールダウンの時間をかなり長く取っていたこと。よくある「メニュー後15分」とかではなくて、心臓を落ち着かせるまでの間、緩やかに身体を動かし続ける。数字で表しにくいけど、数時間はそんな状態が続く感覚で、その範囲内で時間の経過とともに必要なリカバリー作業が減っていく。その間はアルコールとかもあまり入れない。(缶1本くらいはOK)
      これは知識とかではなく、身体の感覚として、やっておくと良い気がした。その方が心臓が落ち着いてくれて、次の高負荷トレーニングにスムーズに入れる感覚があったので。(逆に、高負荷トレーニングをするつもりでも、スムーズに入れなければ、即やめてた)
      もっと現実的なリスクとしていうと、スポーツ性の心房細動で血栓が発生した時に、脱水で血液がドロドロしているほど、脳内で詰まりやすくなる。夏場、長時間、あるいは飲酒翌日などに起きやすい。水分補給はこの目的からも重要。

      考察B. 10年間

      ここは判断が難しいところだと思うけれど、「10年続けての発症が多い」とは、統計データをもとに、この論文筆者のバルセロナ大の先生が、「このあたり?」と引いた基準。単純に裏返せば「10年続けなければOK」となるけど、確率論なので、何年ならOK、という問題ではない。同時に、運動習慣による心身のメリットは大きいから、その+-バランスも関わってくる。そこで、自分ならどうする、という自己責任での判断になる。
      ※特に、こういう数字は断片だけ独り歩きしそうで怖い。そこをあえて書いているので、紹介などされる際には、まず根拠からきちんとご理解くださいね
      僕がレース用の負荷を上げたトレーニングしてたのは2010初夏から2015春ごろまで、5年ほど。その中でも「ピーク」といえるのは2012年末からの10ヶ月だけ。「たぶんこういうことかな?」程度の話として書いている。

      僕は5年やってみて、気持ちのレベルで、十分やった!と思えたので、スローダウンしただけ。それくらいなら、身体性能的にはフレッシュだと思っていて、結局、心身その他の総合判断として、自分はどうしたいのか、という価値レベルの話になる。その上で僕は、またどっかでピークチャレンジしてみたい気もするけど、まあ、40後半という中途半端な年齢の今ではない。9月の村上に向けてまあまあ練習は再開してゆくけども。

      フレッシュな状態でいる、というのは大事なことだと思っている。

      結論

      現実に、この病気のリスクが気になるほど負荷を積み上げている方は、そんなに多くはないかなとは思う。今、自覚症状が無いなら、心配するようなことではないだろう。

      ただ、心房細動は進行性で、一時的な発作のうち、年5%ほどが慢性症状へ移行する。常時心臓を気にする生活とは想像したくないよねー。おかしな脈拍を感じたら、早めに専門医にかかったほうがいい。
      ※スポーツ性の不整脈は、ベッドで寝て安静時で取る普通の検査ではわかりにくく、実際の心拍数まで上げる「負荷心電図検査」を行う。横浜市スポーツ医科学センターなどで受けられる模様。
      とくにトライアスロンは、筋肉を3種目で使い分ける分、心臓に負荷が集中しがちな面もある。普通の人の運動習慣としては身体に優しいのだけど、ピークを目指した時には、気をつけた方がいいかもしれない。

      ともかくも、栄養・睡眠・休養の重要性を、今一度、考えさせられる。

      トレーニングとは、負荷によって、身体に炎症と酸化ストレスを与える行為。それは筋肉でも心臓でも同じこと。その負荷と回復の波を、自分の思考と感覚で制御してゆく。スポーツとは結局ここに尽きると思う。



      自分にとっての答えを決められるのは。結局、自分1人だけだ。



      付記
      ここで取り上げた論文は、登録2,800超のFacebookグループ「トライアスロンを科学する会」で紹介されており、そこでの議論を参考にこの投稿を書いてます。関心ある方はご登録の上で、ぜひ議論に参加ください。
      私は文系バックグラウンドの者ですが、世界水準の社会学を知る教官に指導された修士=Masterとして、汎用的な学術論文の解釈スキルは持っているつもりで、それは医学論文である当論文でも例外ではありません。(実際、レビュー論文を読む上では、文系理系や専門分野の差などが、それほどには、障害にならないものです) 
      あくまでも私の個人的視点による文章でもあり、批判的議論は常に歓迎します。ただ 最 低 限 の 知 的 マ ナ ー として、ご指摘は、具体的な記述内容をもとに、具体的かつ論理的に、お願いいたします。私のこれまでの理系分野を含めた発信については、理系専門家の方々にも、概ね、ご賛同いただいておりますので。

      2019/05/05

      「ブログ副業で年収2000万」の真実 - もしくはネット発信の本当の効果

      昨今の副業/複業ブームの中で、「ブログ書いて稼げ」的なのがある。

      著名なイケハヤ師  (Twitterフォロワー20万)とか、ブログ起点で華々しく稼がれる方々が目立つ。マイルドなところでも、例えば最近パラ読みした 『複業の教科書』2018/12 by 西村創一朗 もブログ書いて稼ごう!と勧めてた。

      しかし、本当に稼ぐためには明確な条件がある。(僕の知りうる範囲でいえば)
      この投稿では、よく知らない方に向け、基本的な状況を説明しよう。

      稼ぐ条件

      結論として、ブログで稼げる場合とは
      • 広告マーケット自体が大きい
      • ゆえに、ネット広告の単価も高い
      • そうではないマイナー分野なら、利益率の高い商品を売れる
      くらいだと思う。

      たとえば、「31歳短大卒で年収1000万円プラス副業収入2000万円」という https://twitter.com/moto_recruit(Twitter5万)さんインタビュー記事がある。
      "「副業で年2000万円稼ぐ男」に学ぶキャリア戦略 評価を高めるには「個人で稼ぐ力」が重要だ" 東洋経済オンライン by 川畑翔太郎, 2019/02/21 
      普通の読者は、「2000万もどうやって稼げるの?」という具体的なマネタイズ手法が気になるのではないかな。でも記事ではそこには触れていない。前述の西村さんの本でも触れていない。ブログ発信に限らず、有名な藤原和博さんの「3つ掛け合わせて100万に1人」のキャリア理論でも(普通のサラリーマンに活かせる現実的な形では)触れられていない。

      なぜマネタイズ手法に触れないのか?

      たぶん、具体的な手法を言っちゃうと、読者さんの多くががっかりして、本が売れなくなるからかな?と思っている。かわりに僕が知るうる範囲で説明しよう。

      副業2000万のmoto氏の場合、「ハイスペ層の転職」というメジャー市場を抑えているからだろう。
      仮に(※以下この場で思いついたテキトーな数字です)転職斡旋業者が年収1000万転職を決めれば3割=300万円が入る。年7人で2000万いく。これがベースになる。たとえばブログ記事から問い合わせをした求職者の1%で転職が決まるとすると、年700人が問い合わせすれば2000万いく。このうち、広告費=ブログ運営者の収入は一部ではあるけど、業者からすれば、少なくない金額を払う価値がある。
      ここに入る数字は単なる例え話で、要は、おカネが動く分野だということ。

      このように、高い広告単価を取れる商品は他にもある。「クレジットカードの比較」とかもそうだ。当然に激戦なので、そこで1つ抜けるのには、基本は企業レベルの経営が必要。
      僕が会って話を聞いた範囲では、たとえばかの「与沢翼」と同時期に同様の手法で同レベルに(=月で数千万円とか)稼いでた方とか。彼は与沢氏のようなメディア露出ではなく、社員を採用し企業化し、法人営業して、年商数十億円くらいで成長中)
      与沢氏は著名編集者と組んで一般知名度を上げる方向に走ったけど、それはある面では「終わった後のメディア向けの顔」かなとも思っていて、少なくともそのビジネスの真実ではない。「大衆にも理解できる表の悪人顔」と「見せないところでの稼ぎ方=たとえば資産運用」をうまく使い分ける方だと思う。この使い分けができないインフルエンサーさんは疲弊しがちな印象もある。

      実際、稼げてるケース

      moto氏の場合、転職、という市場との相性がいい。「自らキャリアアップしている個人の発信」が信用される、という特性が強いからだ。(この点で「元リクルート」という経歴もわかりやすく、そのまんまアカウント名にするあたり、自身よくわかっていらっしゃる)

      マイナー分野=たとえばスポーツ(笑)の場合、単価を確保する工夫が必要。
      たとえばAmazonアフィリエイトでは、本では1冊1000円ちょい×2−3%、1冊売って30円とか。でもウェア類やプロテイン類は数千円×8%で1つ数百円以上、定期購入させればユーザ一人あたり年間数千円以上が稼げる。
      成功例の1つが、圧倒的な自転車器材レビュー量を誇る It技術者ロードバイク日記 。自己投資額も明らかに多いが、分野トップを取ることで、比較的高単価商品の8%アフィリを多数獲得できていると思われ、オリジナル受託案件も多そうだ
      さらに利益率を上げる方法が、独自商品の開発だ。
      というと大変なようだけど、「普通の人が大変だと思う」からライバルが少なく、儲かるわけだ。

      実際、独自商品はSNSと極めて親和的で、強いファン=固定客に対して、「なぜこの商品が必要なのか?」という必然性を高い説得力で伝えることができる(←ここ超大事)。だから売れる。しかも定期購入=サブスクライブしてくれやすい。
      そのために必要なフォロワー規模は、世間で言われているより、ずっと少なくて済む、というのがいまのところの僕の観察。

      秋田の水田」 撮影&使用許諾 by稲垣純也 https://twitter.com/inagakijunya

      〜収穫は、今、ではない


      情報発信とは、稼ぐためではない(まずは)

      このように勝ちパターンを紹介された時に、
      「ああ、それね、私が本業で扱ってるあの商品なら幾つ売ればいいよね!」
      「いつもAmazonで月いくつ売ってるサプリ、どうすれば自前のを開発できるかな?」
      くらい現実的に考えることができるのなら、あなたはチャレンジする価値があるだろう。

      けど、「なんか稼げるのかな?」くらいでフワっとやると、期待を裏切られるだろう。「苦労対効果」(先の山川和風さんの表現)が見合わないから。

      そうではない場合、ネット発信の本当の効果は、「今、稼ぐこと」ではない。
      • 本業ではできない経験ができる
      • 考えが磨かれる
      • 伝えるべきものを広く伝えることができる
      といった形のないものを得ることだ。

      目的が稼ぐことなら、今ならまず『「いつでも転職できる」を武器にする 市場価値に左右されない「自分軸」の作り方 』 – 2019/4 by 松本利明 あたりで、生涯給与収入を最大化しにいくのが最も現実的かなと思う。noteで序文公開されてます→ https://note.mu/kore_career/n/n1f0f9ad9dc6b )

      メディアでウケる論客さん(ホリエモン・西野・藤原さんなどなど)は、スター性に依存し、生存者バイアスもあって、読んでて楽しいけど、実際使えないノウハウが多い。普通の人にも再現性がある手法がまず必要だから。

      2019/05/04

      インスタ活用の技術:なぜキプチョゲよりキリアン・ジョルネのフォロワー数が多いのか? - ネット発信論5.

      SNSユーザ数をスポーツ視点でみると、
      • 月間ユーザー数:facebook 22億 Intsagram 10億
      • スポーツファンのアカウント数:facebook 6.5億 Intsagram 1.6億
      出典:「Twitter社とFacebook社が描くアスリート × SNSの近未来予想図」by 五勝出拳一 2018/07/20
      との昨夏の数字があり、スポーツファンの率はフェイスブックが高い。

      ただ、トップアスリートからの発信なら、インスタグラムが明白に優位だろう。
      【スポーツとは、ビジュアルの世界】(上記記事)であり、トップアスリートは最高のインスタ映え素材だから。

      たとえば人類最高の長距離ランナー、エリウド・キプチョゲでは
      内容はほぼ同じ、投稿数はツイッターが4倍多いので、投稿数あたりではインスタのパフォーマンスは約16倍。ファンが単純に媒体の好みで選んだ結果がこうだ。

      もっとフォロワー数を多いのがトレイル・ランニング界の神、キリアン・ジョルネ。


      キリアンは、トレランの神とはいえ競技人口はとても少ないし、登山やランニングの一部には知られるとしても、一般人レベルなら知名度ほぼゼロといっていいのではないだろうか? 僕は普通の人よりはこの界隈に近いと思うのだけど、それでも彼の名を知ったのはせいぜいこの1年くらいのことだ。
      一方でキプチョゲは、何度も世界的なトップニュースになっていて、知名度最高レベル。(まあ「また凄いケニア人が出てきたみたい」くらいの一般人さんの方が多いだろうけど笑、巨大な世界のランニング人口だけでもファン多いはず)

      なぜキリアンのフォロワー数は多いのか?

      逆に言えば、なぜキプチョゲは、その実力&知名度に見合うフォロワー獲得ができていないのか?
      (という問いは論理的には成立するとしても45万いるんだからイジワルなツッコミなのだが笑、知名度的にはケタが1つ以上たりないともいえるわけで) 

      まず、歴史と算数で考えると、SNSファン作りの歴史が違う。
      Twitterというサービスは2006.03創設。キリアンのアカウント開設は2009.09と早い。キプチョゲは2014.04。投稿数では14倍の差があり、キリアンの継続ぶりがよくわかる。

      Instagramは2010.10創設、キリアンはいつから?とページダウンボタンを押し続けて発見、2011.11に最初の投稿をしている。こちらがその最初の7枚。普通に普通だ笑

      キプチョゲは2016.08から。Breaking2が2017.05なので、たぶんその本格化の頃。NIKEさんのマーケティングの意向もありそう。

      つまり、キリアンは
      1. Twitter開始が早く
      2. 投稿を続けて、(小さなはずの市場で)コアなファンを育て
      3. Instagram登場後の対応も素早く
      4. Twitter上のファンを持って行けて
      5. Instagram特有のファンを増やしていった
      と考えられるだろう。行動の継続が数字に表れている。

      さらに内容面まで見ていこう。表現=国語&図工の応用問題だ。

      キリアンのインスタ投稿の特徴)
      1. 彼だけが目にしていて、
      2. 普通の人なら生涯一度も行かないようなエキストリームな風景は、
      3. 「このインスタでしか見られない画像」であり、
      4. かつ、彼の「結果に至る過程」が見える
      つまり、登録するべき必然性が大きい。初期は普通でも、だんだんとクオリティを上げている。さっき紹介した動画はその典型。普通の人なら生きて還れない級のエキストリームさ加減だ。

      一方でキプチョゲは、スタジアムや記者発表など公的な場の報告が多い。伝統的大企業の広報内容に近いかな? まあNIKEという巨大企業の第二広報部的な存在なので(VaporFlyもBreaking2も彼のために用意されたようなものだし)この点で驚きはないといえばないか。

      動機の違いも大きい。キプチョゲは、自分から言わなくても、メディアがいくらでも報じてくれる。キリアンは自分から発信しなければ、狭い世界を超えることができない立場だ。

      結局キリアンは、自らリアルに体験してきたエキストリームな現場を「素直に」伝える行動を継続している。その蓄積が、Instagramという相性の良い媒体の登場によって加速された、といえるだろう。

      ・・・

      とか説明してみたところで、キリアンのエキストリームな山岳写真ぶりは、あらゆるロジックをふっとばす破壊力ある笑

      僕のSNSは、


      最近はどっちかといえばTwitter重視な感じです。インスタは気まぐれ。
      内容はそれぞれ別なので、関心ある方は両方をフォローください。

      <参考記事>
      「全てのアスリートはインスタグラムをやるべきだと思う理由」 えとみほ(江藤美帆) 2018/02/15
      昨夏の。「アスリートとインスタグラムはめちゃくちゃ相性がいい」という理由を、
      理由1:炎上しづらい(適度にクローズド)
      理由2:ファンが勝手に親近感を持ってくれる
      理由3:フォロワーは持ち運び可能な個人の資産になる
      と説明する。1−2は、下記の「一方通行」の話と通じる。インスタが一番一方通行的だから、3はインスタに限らない、 ネット発信すべてに共通する話だ。
      <シリーズ投稿>
      ネット発信論1. アスリートの情報発信を後押しする「人間関係」について
      ネット発信論2. SNS発信は "一方通行" でいい
      ネット発信論3. ブレーキ要素を「認知的不協和」理論で解剖する 
      ネット発信論4. 「成長の過程」を共有する

      2019/05/03

      ネット発信論4. 「成長の過程」を共有する

      この投稿では、エリート・アスリートにとって、
      • 「セカンドキャリアに備える」
      • 「ファーストキャリア=競技活動で、退路を断つ覚悟を決める」(=くらいのモチベーションで取り組む)
      この2つを両立させるための、「ファンと同じストーリーを共有する」というネット活用法について書く。

      僕自身はエリート競技経験はないけど、エイジ部門(=マスターズ)での実体験に共通部はあり、今ちょうど大学の講義でも関わってるので、考えを整理しておきたい。

      「一方通行のネット発信論」追記

      前提として、全てのアスリートは、ネット発信すると良いと思う。その際に、
      1. SNSを「友達の延長」として扱わない
      2. かわりに、一方通告のメディアと割り切る
      3. ファンとの距離を取る(トップアスリートほど、女性は特に)
      4. 発信内容は「素直」に
      くらいのスタンスでいると楽かもよ、と先日
      ネット発信論2. SNS発信は "一方通行" でいい 2019/04/21
      で書いた。

      双方向性がウリのSNSをあえて「一方通行」にするのは、トップレベルほど「余計なメンタル要素」を排除するといいから。
      もう1つ、特に大学生〜若手社会人ごろまで、SNSを友達どうしクローズドに使うことが多い実態にも合うと思う。

      友達間なら、内輪でウケればいい。でもアスリートのような一芸ある立場からは、その延長で発信しないほうがいい。(慣れるに従い混ぜていくのならもちろん良い進化)
      この切り替えができないと、極端なケースでは、アホなバイト炎上投稿のようなことも起きかねない。

      だから、一方通行、くらいに捉えて、たとえばフォローバックしなくてもいいし(したければしてもいいし)、コメント返したり、いいね!つける必要もない。(僕は好きだからしてるけど)

      この点で、SNSとは「自分株式会社広報部」の業務に近い。20代後半くらいの社会人になれば、このビジネス的価値観にみんな適応できているので、スムーズかと思う。(20代前半だとエリートサラリーマンでもアホなこと平然としでかしたニュースとか見る)
      その広報活動に対しての反応がダイレクトに得られる、という程度に、SNSは双方向ではある。

      「怖がりすぎて結果しか書かないアカウント」問題

      逆方向の問題もあり、リスクを恐れ過ぎて、試合結果だけ淡々と報告してるケースも多いのでは?
      今の高校とかの教育では、ネットの公開発信は控える方向で指導されることも多いだろう。犯罪被害も現にあるし、それ自体は問題ないと思うけど(アメリカだと違法薬物の売人がメッセンジャーで親しげに接触してくるそうで)、その流れのまま公式アカウントを開設して、情報を出さない過ぎる。

      やらないよりは良いのだけど、読者の範囲が、自分の周りのリアル世界から拡がることはないだろう。仮にオリンピックに出ても、ニュースで名前出た瞬間に一時的にだけ増えて、すぐ忘れられてしまうだろう。

      「同じ物語を共有する」という発信手法

      では何をかわりに見せるかというと、「過程」を見せればいい。

      ちょっと高度な事例になるけど、ちょうど良いツイートを紹介しておこう。

      10年ほど前、プロボクサーとして日本王者を目指しながらデュアルキャリアでトレーニングスタジオなども経営していたという山川和風さんだ。
      「どん底からの逆転ストーリー」をリアルタイムでブログでつづり、完結スレスレまでファンとともに歩んだストーリーがきっかけでコアファンが増え
      と、「ファンと同じストーリーを共有する手段」としてネットを使われていたようだ。
      彼は双方向に活用されていたようで、中上級者が使いこなすのならもちろん良いことだ。物語の共有、となると、やはり双方向性はいくらか必要になってくる。これは負担というよりも、将来キャリアに向けた大きな大きな武器になるだろう。

      「ハッタリ」

      「チャンピオンになるための教科書」というブログを書き、自分にプレッシャーを与えて競技成績を急成長させた経緯がある。(黒歴史なので引退時に削除済w)
      というあたり、僕も似たような経験をしていて、肌感覚としてもよくわかる話だ。
      (旧ブログ→ http://masujiro.cocolog-nifty.com/ 何度か名称変更してるけど、たしか2011−12年頃からか、アラフォーほぼ最強、を名乗っていた時期ありまして、看板に見合う力を、と良いモチベーションになりました。当時いわゆるハンドル名が「ハッタリくん」、レース結果で名前即わかるので事実上の実名アカウント、今は名前=ブログ名です)

      「退路を断つ覚悟」について

      山川和風さんはもう1つ、興味深い指摘をされる:
      実体験を持つ人同士のやりとりには、迫力あるよね。
      タイトルの 「退路を断つ覚悟」とは、ここから考えた話です。

      命をかけるくらい強い気持ち → 結果

      という因果関係は確かにあるけど、神に祈るのと同じ。
      ブラックボックスに賭けるなら、博打でしかない。

      でもスポーツとは、選択肢を探り、組み合わせ、勝利確率を上げるものだよね。
      そんな発想から、本当に強いアスリートは生まれないと思う。

      トップレベルほど「余計なメンタル要素」を排除するといい、と先に書いたけど、それは「余計な要素」についての話。セカンドキャリアを考えることは必要要素だし、やり方しだいでは今のファーストキャリア=競技活動にプラスにすることもできるはず。

      その1つが、ネットを使ってファンを育ててゆく、ということだ。

      ファンと同じストーリーを共有する

      「退路を断って競技している」という気分は、テンションを上げるのだろう。
      でも「勝ち上がる過程を見せてファンを増やす」ことによっても、自分のメンタルを操作できる。
      その過程で、「学ぶ、学びを活かす、発信する」ことが、相乗的に効いてくる。
      たとえば大学生なら、これができれば就活は超強いだろう。

      アスリートのネット発信では「競技成績」は最強の武器。
      結果を出して、ファンを増やす、そこから新たな物語が始まる。
      だから、発信するために、勝たねばならない。
      実名で、目標を掲げ、発信することこそ、本当に退路を断つ行為だ。

      賭けるなら、こちら側のシナリオに対してだと思う。

      トレーニングとは、知的作業だ
      『覚醒せよ、わが身体。- トライアスリートのエスノグラフィー』p123
      今の日本で、スポーツをハイレベルにできるほど健康な心身を持つのならば、経済的なハングリーさは存在しないといってもいい。一方で、出る杭を打て的な社会的、空気的な同調圧力は高めだと思う。どちらが、より高いモチベーションとなるのか?という話だ。

      高すぎるプレッシャーとなるのなら、「一方通行」と割り切って、シンプルに過程を発信していけばいい。そのプレッシャーを力に替えられると思うのなら、自らが成長するストーリーを示し、巻き込んでいけばいい。誰かのアラを探して(啓蒙とか誰かのためにする目的ではなくて)見下しディスる炎上芸など一切要らない。

      2019/04/27

      ネット発信論3. ブレーキ要素を「認知的不協和」理論で解剖する

      ネット発信をためらう人たちへ

      ネット眺めてて、
      「なんで、当事者でもない人が、こんなに批判してるの? たいして大事な話でもないのに?
      と引いてしまうケース、たまに見るよねー。

      こちらはTwitterで医療方面から流れてきたジョークに乗ってみた:

      元ツイートもギャグなんだけど、プロ医療者さんが「抗生剤」「輸液」「栄養」などの基本技法にこだわりを持つのは自然ではある。ギャグになるレベルの「物凄いこだわり」にまで行っちゃうこともあるんだろう。

      スポーツとかの場合は、そもそもが趣味の話なんだけど(プロスポーツも "究極の趣味" として存在しているわけで)、にもかかわらず、一方的に非難してくるようなネガティブ反応を、わりと見る気がする。

      僕はそんな状況を楽しませてもらっているのだけど、世の中的にはダメージ受けてる方も見かける。さらに大きな影響は、横で黙って見ている人たちにとって、発信への抑止要因にもなっているであろうこと。

      本来、世に広めるべきものを持っている人が、その恐れから行動できないのなら、実にもったいないことだ。(起きてもいないことを恐れて何もしないことが、合理的な行動だとも思えないけれども)

      今から書くのはそんな状況についての考察であり、
      • テーマの重要度(の低さ)に対して、過剰に強い反応をしてしまうネット上の人たちの心理とはなにか?
      • それを受けた時、発信者は、どのようにディフェンスすればいいのか?
      についてだ。

      目的の1つは、情報発信に興味ある人たちに届いて、行動の力になること。


      アイデンティティ論

      なぜこうなるのか?

      まず考えられるのは、それがアイデンティティの一部を構成しているからだろう。アイデンティティとは、自分が何者であるか、という自意識の集合体。
      「練習量を積み上げることで、速くなるだろう」
      なら、単なる身体機能 or 合理性レベルの話だ。でも、
      「練習量を積み上げることで、"理想の自分"に近づけるはずだ」
      なら、合理を超えたアイデンティティの話になる。

      そんな中で、
      「練習量を積み上げても、速くなるとは限らないよ」
      という合理性レベルでの意見を目にして、
      「"練習量を積み上げることによって理想の自分に近づいていたはずの自分自身"への攻撃」
      と受け取ってしまう。

      つまり、「アイデンティティとは相容れない事態」が現れたとき、「自分自身が攻撃された」かのように受け取ってしまう。それが自分にとっては本来どうでもいい事であったとしても。



      「認知的不協和」理論

      これは、自分自身のアイデンティティを防衛しようとする心理のしわざ。
      この仕組みは、「認知的不協和」として理解できる。

      たとえば、悪い人に騙された被害者が「いや、あの人は本当は悪い人じゃない・・・」とか悪い人の味方をし始めたりする。(高確率で新たな悪い人が現れ、「可哀想に、ワタシが取り戻してあげよう」的に騙しにきて、さらに信じてしまう。。)
      この心理状態とは、「騙された愚かな自分」という状態を受け入れられず、現実を見るレンズの方を曇らせることで、自分の世界を整合的なものに保っている。

      と書くとおかしな話なんだけど、人間心理には、常に「自分は正しいはず」という圧力がかかっているものだ。

      状況を整理しよう。
      • 客観: 目の前で、現に存在するもの
      • 主観: 目に映る、自分が認識した世界
      両者にズレがあることに気づいた状態が、「認知的不協和」。
      そして、人間心理は、この状態に耐えられない。

      その解消のための対応は、二択なら、どちらか:
      • 客観を正とする=自分の認識を改める
      • 主観を正とする=相手がおかしいと思う
      後者のケースでは、自分(=情報の読み手)が正しいと思うことで、自分自身を守ろうとしている。
      すると玉突き的に、相手(=情報の発信者)を否定せざるをえない。

      ケーススタディ

      たとえば、
      A.「糖質制限×スポーツ」というテーマは、
      B.「白米/ラーメン食べる」という食文化とは、
      整合性がないよね。

      糖質制限派のAさんは、自分自身の課題(脂質代謝とか胃腸トラブルとか)を解決したいだけ。

      一方で、白米食文化のBさんにとって、白米は自分自身が育ってきた個人史の一部であり、家庭で受けてきた愛情の一部であったりする。そのアイデンティティの一部と整合性のない事実を、そのまま受け止めるのは、自分自身を否定されたかのな感情が起こる。それに対する防御反応として、「あんなのおかしい」など否定的な言葉を発してみたりする。

      すると、それを目にした糖質制限派Aさんは、Aさん自身が攻撃されたかのように受け取ってしまう。

      実際には、Bさんが批判の言葉を吐いたのは、Bさん自身のアイデンティティを防御したいだけ。Aさんを攻撃するのは(仮にそういう言葉を取っていたとしても)Bさんの本心ではない。

      こうして、なんてことのない情報発信が、荒れがちになる。

      (・・・いや、あまりリアリティない例でした、、失笑。A-Bもっといい例で入れ替えてお読みください)

      どうすればいいか?

      基本スタンスは、
      「自分は正しくも間違ってもいない」
      というニュートラルなポジションにいること。
      つまり、思考や判断を、自分自身から切り離すこと、だと思う。

      考えとは、常に「仮説」にすぎない。
      「まずは、こっちが正しい」として行動してみる。
      やってみて違うなと思ったら、仮説を修正して再行動する。
      その繰り返しだ。
      それは行動であって、自分自身=アイデンティティとは独立したものだから。

      攻撃は弱点をあかす

      1つ追記すると、上記ケースで、BさんはAさんを攻撃しているかのようでいて、実際には、Bさん自身が守りたいもの=もっといえば、弱点を、露呈している、ともいえる。

      なにか不当な攻撃を受けてるな、という場合に、
      「この人は "こういう攻撃をすることによって守りたい弱点" があるってことだ、それは何だろう?」
      と分析してみるのは、人間観察の良いトレーニングになるかもしれない。

      逆にいえば、不用意な攻撃をすると、しなくてもいい自己開示をしてしまう。僕も注意するとしよう。

      結論

      結局、ネット上では、プラス要素だけを拾い、そして提供していけばいい。

      この文章が、「これから何かを発信していこうかな、でも、、、」という方に届いて、そのうち誰か一人でも行動を起こしてくれるのなら、僕は嬉しい。

      <関連記事>
      ネット発信論1. アスリートの情報発信を後押しする「人間関係」について 2019/04/14
      ネット発信論2. SNS発信は "一方通行" でいい 2019/04/21

      2019/04/21

      ネット発信論2. SNS発信は "一方通行" でいい

      SNS発信の誤解
      SNSは、単に友達どうしで使うのなら、カギでもかけて自由に使えばいい。
      なんだけど、なにかの目的のために発信していく戦略的に使い方もできる。ここから書くのはこの戦略系発信のための、基本的な心構え、そして防御技術についてだ。

      戦略的発信について、世間でよくあるイメージでは
      ❝フォロワー数を増やすことが目的、多ければ「インフルエンサー」になれて、何か良いことが起きる❞
      というものかな。はーちゅー的なやつね。

      でもそれ、浅いと思う。
      目立つ存在だけを、しかも表面だけを見ていないかな?

      このゴールイメージを間違えて設定してしまうと、「あんなの無理」て遠ざけたり、動けなくなってしまう。
      でも中には明らかに良質な素材を持っていて、かつ、それを活かしたい気持ちもある(←ここ大事)人も多いはず。もったいない。

      動けないのは、ハードルを自分で勝手に上げすぎているせい、かもしれない。


      SNS発信の真実
      そもそもネット発信とはなにか?
      基本は、暗闇をタイマツを灯して進むような行為だ。暗闇の向こうで全世界(日本語圏に限るけど)の誰がどう見てるか、わからない。

      と書くと恐ろしいけど、誰が見てるかわからない=誰もが読者になってくれる可能性があるということ、世界が拡がるということ。
      しかもこのチャンスは、誰にとっても平等に、かつ無制限に、開かれている。

      そしてこの暗闇的緊張感を、プラスのモチベーションとして活かすこともできる。鬼コーチに見られながら書いてるようなものだから。鬼だけど、指導力もあるコーチにね。

      そんな可能性と緊張感とによって、思考と表現についてのトレーニング効果が高い。それがネット発信の本当の意味。
      SNSはその手軽な第一歩だ。しかも、親しい相手から順に届くから、好意的な反応を、より速く得ることができる。だからモチベーション向上効果も高い。

      その結果、

      思考と表現が磨かれる ⇔ 読まれる

      というスパイラルな進化が起きるのだ。
      (というか、そうなるように、SNSを使うのだ)


      SNSを "一方通行メディア" として使うということ

      では、気軽に、安全に、かつ効果を出しながら、発信するにはどうすればいいのか?

      僕の考える基本メソッドは
      1. SNSを「友達の延長」として扱わない
      2. かわりに、一方通告のメディアと割り切る
      3. ファンとの距離を取る(トップアスリートほど、女性は特に)
      4. 発信内容は「素直」に
      ということ。

      第一歩は、SNSを「友達の延長」として扱わないことだと思う。
      もちろん、リアル友達との交流「も」併存して構わないのだけど、
      • 「友達の延長として、全世界にも向かう」
      • 「全世界に向かいながら、友達とも接する」
      両者のスタンスは、大きく変わるだろう。

      それが明確に現れるのが
      • 双方向か
      • 一方通行か
      の違いだ。

      なお、前半に書いたことと整合性がないように感じられるかもしれないけど、
      • 発信: 一方通行に実行
      • 効果: 双方向に獲得
      という状態を目指すことはできる。

      世界トップアスリートも一方通行

      実際、海外のトップアスリートのSNSは、明確に一方通行タイプでの発信が多いと思う。自分の伝えたいことだけ、見せたいものだけ、出す。
      ファンの反応には、基本、反応しない。
      かわりに、見せ方のクオリティを上げる。

      たとえば男子トライアスロンで現在最高の選手フロデノは、明らかにカメラマンを帯同させている。これは、スマホ画面への一瞬の露出でファンを掴む仕組みだ。
      こちら、ケガで2018年アイアンマン世界選手権を欠場する報告。この1枚と短い文章で、全てを伝えている。(特にインスタはこういうの向いている)


      これでいいのだ。

      トップアスリートの本質的役割である、競技パフォーマンスに集中することにもつながるだろう。

      もしも、「双方向にしなきゃ」というプレッシャーから動き出せないのなら、まずはその考えから変えてみてはどうだろうか。

      目指すもの、目指さないもの

      プロカメラマンを帯同させるためにはフロデノ級の経営力あってのことだけど、誰にとっても重要なのは

      • 方向性を明確にする
      • 同時に、力を入れないところ、やらないことを明確にする
      ということだ。その上で、自分にできること、他人に協力してもらうこと(=前に書いた話)、進めていけばいい。

      ただしコーチの場合には、仕事自体が本質的に双方向なものだから、SNSでも双方向性を出してゆくメリットがある。
      「現役アスリートだけど、あえて双方向で」という応用戦術もありうるけど、やや奇策に近いかな。

      以上、4つのポイントのうちの123について。ただ浅い手法ではあって、深いのは4つめ、発信内容は「素直」に、ということ。説明が必要なところなので、また改めて。

      僕の場合

      ついでに、僕自身の経験も少し書いておくと、トライアスロン始めた2010年頃から事実上の実名でブログを書き始め(ランキング等の結果で名前わかるから)、2013年頃からはブログ名まで実名に、Facebookも全て公開設定に変えた。法政で修士論文を書き始めた頃だ。

      そこには明確な「目的」があった。
      無名な僕が、論文を世に出してゆくという目的だ。

      2014年1月に提出した修士論文は、論文の体で出すのに精一杯だったけど、その後もネット発信を続けたことで、

      思考と表現が磨かれる ⇔ 読まれる

      という相関がスパイラルに進んだ。

      2018.01 中日新聞さん取材@幸田駅前書店

      ここで「読まれる」とは、個別の情報や考えがその時に読まれ、判断されて、活用される、という一回的な現象をいう。「今のあなたに価値のある情報か、そうではないか」を都度都度ジャッジしてもらうということ。「ハッタマスユキという人間がマルっと信じられる」という一般的な状態ではない。「いわゆるインフルエンサー」には後者の状態なのも目立つけど、それは情報発信のあるべき姿ではない。

      こうして、Facebookが2000人超えたタイミングで、本を出すことができたのだけど、それは2000人いたから本を出した、という「結果」ではなくて、2000人に至る「過程」、そのトレーニング効果に意味がある。

      結論

      まとめると、「フォロワー数を増やすこと」は目的ではありえず、また何かの手段とも限らず、結果の1つにすぎない。そこに至るまでの副産物にこそ目を向けよう。

      どんな副産物がありうるかは人それぞれだけど、ここで大事なことは、なんらか方針を決めておくことで、心理的なハードルを下げること。それさえできればなんでもいいんだけど、僕のオススメは:
      1. SNSを「友達の延長」として扱わない
      2. かわりに、一方通告のメディアと割り切る
      3. トップアスリートほど、ファンとの距離を取る(女性は特に)
      4. 発信内容は「素直」に
      (続く)

      2つ前の投稿 "アスリートの情報発信を後押しする「人間関係」について" も併せてどうぞ。(読む気力が残っていましたら、笑)


      ↑ ↑ ↑
      (こうして世に出た本、楽天ブックスは在庫多め、Amazonは書評サイトです笑)

      2019/04/18

      “糖質制限 × 長距離スポーツ” 国内事例が出はじめた

      2019年4月 宮古島トライアスロン の蒸し暑さ、優勝戸原プロ、7位竹谷コーチ、そしてM45-49カテゴリ1位の青木医師、と競技力が高く、熱中症リスクも熟知される方々が続々と熱中症にハマりかけていた模様。ハマりきらずに好成績で終えるのは皆さんさすがだ。レース前半の雨で警戒心がなくなったのも効いていそうだ。
      暑さ慣れしていないこの時期、ちょっとした気温湿度の上昇で、リスクが急上昇するのは、5月のショート横浜なども同じ。まったくトライアスロンとはややこしい。

      宮古島ジャンプアップの成功要因4つ

      そんなタフな宮古で、前年から40分以上の短縮、総合14位、最も元気なM30-34カテゴリ1位(総合Top10繰り上げ対象は戸原&栗原の両プロなので一般人1位)、と素晴らしい成果を上げた菊池朋明さんが、ブログでその成功要因を4つ挙げておられる。


      長距離レースでのジャンプを目指す方なら、読んでみるといい。
      まず、
      • Training Peaksを活用した量の管理
      • バイクは99%Zwift
      この2つの採用者は今すごく多い。違うのは、徹底度の差ってことだろう。

      では、
      • 糖質制限生活を半年間
      • 痛みをマネージメントする
      この2つは、どうだろう?
      ❝ 考え方が合わない人は読み飛ばしてください ❞
      という話であることを前提に、少し説明しよう。

      “糖質制限 × 長距離スポーツ” 

      このKikuchiさん、鎖骨骨折で練習できない間に体重を増やさない、という目的で禁酒と食事管理を始めたのが、そもそものきっかけ。そして、
      ❝ エンデュアランス系のトップアスリートが脂質代謝を上げるために糖質制限を実施していることを知りました。糖質制限は一般的にダイエット目的の人が多いので、アスリート向けにはノウハウがあまり出回っていませんでした。しかし、こちらのセミナーは超絶アスリート向けで勉強になりました! ❞
      と書かれている、まさにそのセミナーの講義録が、こちら。
       “糖質制限 × 長距離スポーツ”の教科書 by 小谷修平   (2019.01, MAKESウェルビーイング・ラボ)
      半年間の継続とは、小谷修平さん が勧めている期間とちょうど一致する。
      連載第4回のこちら:
       4. 適応へのプロセス 
      から引用すると、適応には、一般論として半年あれば十分で
      • 直後: お腹がすいてイライラ
      • 3週間後:「食習慣」として慣れてくる
      • 2ヶ月後: 運動がそれなりにできる
      • 3ヶ月後: スピード練習など、強くなるための良い練習ができる
      • 4〜4.5ヶ月: 良質な練習の効果により、元のレベルに戻る
      • 半年後: メインレースに挑める
      とおおざっぱな目安が示される。小谷さん自身は、3ヶ月で既に❝ 過去最高の自分になっているのでは?という感覚 ❞が得られている。

      その結果、Kikuchiさんも
      ❝ 今回の宮古島も内臓は快適そのもの。去年の補給の半分で走りきれました。ランではいつもジェルも受け付けなくなるのですが、今回は空腹感を感じる余裕がありました。補給を入れられるとはっきり言って楽です。戦うべき対象が減ります。 ❞
      という成果を手にしている。そして栄光の宮古島トップ10まであと4人!

      宮古島2015(本年落選)
      なお、「痛みをマネージメントする」という点は、
       痛みのマネジメント論 by 河合隆志  (2019.03, MAKESウェルビーイング・ラボ)
      ご参照を。これも故障を防ぎながらパフォーマンスを上げるための大事な考え方だと思う。

      「日本語の壁」を越えて 

      糖質制限でのスポーツ活用は、他にも取り組み事例を聞くようになっていて、どれもこの小谷セミナー特集記事を教科書にしてもらっている。

      別の例を挙げると、たとえば「女性の筋トレ」という流行は、日本は欧米から10年遅れて、最近ようやく普及しつつある状況かなと思う。「日本語の壁」により、英語情報圏との時間差が発生しているのだろう。今やアジアでも都市域の中上位階層は英語圏ともいえ、ここからも日本人の多数派は遅れを取るようになっていくかもしれない。

      そんなテーマの1つが、女性の出産とスポーツの関係、その意識差については「妊娠中&出産直後のトライアスロンby 西村知乃」などどうぞ。


      こうした先進情報、これからも追いかけていくのでよろしくどうぞ。

      ※なお私、復帰レースは51.5kmで9月なので、糖質制限トライアスロンする予定ないのであしからず〜糖質の質を上げるマネジメント度は上げていて悪くない感じですけども